チャック

ある日突然人の背中にチャックが見えるようになった。チャックは人の背中の皮膚に直接くっついている。最初は一部の人たちがタトゥーみたいな感じで手術でくっつけたのかと思ったが本人に確認しても訝しがられるだけなので違うらしい。チャックを開けてみたくなった。開けてみた。中から人間の指が出てきた。驚いた。放置しておくことにした。次の日、チャックを開けた人のチャックを見てみると手の甲まで出ていた。それからもどんどん人がそのチャックから出てきた。大体二週間が経つ頃、人の頭が出てきた。口と目が裂けている女だった。そのチャックがついてる人は男なのでこんなのが出てくるんだと思っていた。三ヶ月が経つ頃、口裂け女はチャックから完全に出た。口裂け女の行方は分からない。それから色々な人のチャックを開けてみることにハマった。楽しかった。ごくたまに凄く美人な人が出てきたり、人とタコが合体したものみたいなものが出てきたりした。総じて健康な普通の人は誰一人としていなかった。みんなもともと人だったものになんらかの拷問もしくは人体実験を施したものだった。ある日突然チャックが見えなくなった。途中で気づいたのだが、チャックから出てきたもののもともとの人たちはそれぞれ世界的に活躍している人たちだった。チャックは私自身の活躍している人たちを妬む気持ちから生まれた妄想なのかもしれないと思い始めた。そんなことを考えているとき、何者かに連れ去られてしまった。多分、私もチャックから出てきたモノと同じような状態にされる気がする。ふと祖母が言っていたことを思い出した。

“人の背中についてるものに触っては絶対にいけない”

どうして祖母があれほどまでに言っていたことを今まで忘れていたのだろう。