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不思議体験

satohiroshiさんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

絶滅危惧
短編 2021/03/06 02:23 6,026view
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幼稚園児の頃の話

中部地方のとある大都市の住宅街の一角にやや小さめの神社があった
自分は家が近所だったため、友達と一緒によく境内で遊んでいた

ある日、鬼ごっこで社の周りをぐるぐると走り回っていた
何周かして角を曲がった瞬間、老婆が段差に腰掛けていることに気付いた
服は裾がボロボロの白装束で、髪の毛はドリフのコントに出てくるような、半ば爆発したようにボサボサの茶色っぽく変色した白髪だった
顔は痩せこけ、目はグリグリと見開いていた

今にして思えば、この現代社会、ましてや都市圏の住宅街にこんな格好の老婆がいるのは甚だ不自然ではあるが、幼稚園児だった自分は、「なんだか変わったおばあちゃんだな」くらいにしか思わなかった

追いかけてきた友達も老婆を見て、何やら不思議そうな顔をしていた

恐る恐る老婆に近づいたが、老婆はこちらを見ようともせず、ケッケッと乾いた咳をしていた

最初は訝しんでいたが、自分たちも段々興味を無くし、鬼ごっこを再開した

もう一周すると老婆はいなくなっており、その日以来見かけることはなかった

大人になって、あの老婆は神社の神様だったのではないか、と考えるようになった
服装や雰囲気があまりにも現実離れしていたのだ

と同時に、仮に神様だとしたら、あまりにも惨めな姿ではないか、とも感じた
以前、神様の力は信仰が集まるほど強くなる、という話を聞いたことがある

あの神社は規模が小さく、地元の老人が参拝するくらいで、あまり盛況とは言い難かった
しかし、決して荒れ果ててはおらず、むしろきちんと清掃され、神社としての体裁は整っていたと思う
それでも、あの神社の神様はみすぼらしく、今にも倒れてしまいそうだった

信仰は、時代と共に失われて、あるいは形を変えていくものだ
日本はかつて「八百万の神様」がおわす国だったが、時代とともに信仰を失った神様はどうなるのか
あの老婆の姿を思い浮かべると、神様も「絶滅危惧」の時代が到来してしまっているのではないか、と感じてしまう

神様の「大量絶滅」の後にはどんな時代が来るのか
それとも、もうとっくにそんな時代が訪れているのだろうか

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コメント(1)
  • 空想のようでいてやけに現実味のある話でした。

    2021/03/06/04:31

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