奇々怪々 お知らせ

不思議体験

入道雲さんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

白鳥
短編 2023/03/10 18:41 1,458view

うちの実家は漁師町の近くにある。歩いて10分と掛からない所に漁港があり、子供の頃はよくその場所で遊んでいた。

その漁港は入り組んだ地形の一番奥にあって、周りにはすぐ近くに山が見える。漁港の堤防の50m程向かいには鉄工会社の敷地があるので、漁港の堤防と鉄工所の敷地までの間が小さな川のようになっている。

その場所は海が干潮になると完全に干上がって、泥と砂の混ざった海底が露出する。干上がると所々に水溜まりが出来て、カニや小魚なんかが取り残されているのでよく白サギなんかの水鳥がつついているのが見えた。

大学進学と同時に地元を離れ、就職した私は転職を機に地元に戻ってきた。9年ぶりに戻り、久しぶりの漁港を懐かしむように散歩していると、漁港には関係者以外立ち入り禁止の看板が出来ていてフェンスまで作られていた。
漁具を盗んでいくやつなんかがいたりして近頃はどんどん漁港は立ち入り禁止になっていっている。慣れ親しんだ場所でもそれをみると悲しい気持ちになった。

漁港には入らず、道路に面した場所から海を眺めていると鴨みたいな茶色や黒の鳥がすいーっと水面を滑るようにして近づいてきた。誰かがパンでも与えているのだろうか、人に慣れているようだ。
あいにくパンの持ち合わせはなかったのでただ眺めていると、その鴨達を蹴散らすかのように今度は白鳥が泳いできた。

えっ?と思ったが鴨より数倍は大きい白い鳥といえば白鳥以外知らない。そもそも野生の白鳥なんて初めて見た。ぐあーぐあーと鳴く白鳥はどんどん集まってきて8〜9羽くらいいただろうか。ちょっと薄汚れた感じの白鳥がボスらしく、周りの真っ白な白鳥を蹴散らしていた。

昔はここで白鳥なんて見たこともなかったのに自然も変わっていくんだなとしみじみしていた。

後日、友人2人が久々だという事でうちの実家に遊びにきた。晩飯にでた母のカレーにとうもろこしが入っているのがおかしいなどと文句を垂れながらも美味しいと完食していた。飯を食べ、ゆったりした感じになったがいかんせん田舎なので特に何もない。
散歩にでも行こうかということで、そういえばと白鳥を思い出した。

見間違えなんじゃないのか?と友人たちはからかってきたが、たしかに白鳥だったと言い張り月明かりと少ない街灯を頼りに漁港へ向かう。これで居なかったらどうしようと思いながら漁港に来てみるが鴨しかいない。

これでは嘘つき呼ばわりされてしまうのでなんとかして白鳥を探す。漁港の横の川のようになっている場所は干潮のため干上がっていて、その川に沿っていくように上流側は歩いて行った。これ以上はもう足場がなくて進めないという場所まで来てようやく遠くの方に白鳥らしきものを発見した。

3羽の白鳥は干上がった場所で毛繕いでもしているのか丸くなっている。街灯の灯りもなんとか届くくらいの距離にいるので、白鳥であるということがはっきりと見えない。

友人はビニール袋じゃあないのか?とまだ疑っている。しびれをきらした元高校球児の友人1人が手頃な石を拾って投げ始めた。ギリギリ届かないみたいだ。
おいおい誰かのペットだったりしたらどうすんだよと思い止めようとしたがその直前に投げた石は見事な軌道を描いて白鳥に飛んでいった。

傍目から見てもこれは当たると思うほど完璧なコースで、石は夜空に消えて見えなくなった。間をおかずして、石は見事に白鳥に命中したようで、ドムッ、という重量感ある音を遠くの方であげた。

やってしまった…と思ったがどうにもおかしい。あの白いものが白鳥なのだとしたら大騒ぎしているはずだが、騒ぎもしなければ身動きもしない。あたりどころが悪くて即死させてしまったのか?とも思ったが、その周りにいる白鳥も騒いだりしないのでおかしい。

ほらー、白鳥じゃないじゃんーと友人はわたしをからかうが、ではあれはなんなのだ?とその白い何かから私は目を離せないでいた。

命中させた友人はコントロールを自慢していたが、もう1人の友人と私はずっと白いなにかに目が釘付けになっていた。
すると、その白いものがゆっくりと起き上がった。起き上がったというよりは、体育座りしていた人がゆっくりと立ち上がるような感じだ。

1/2
コメント(1)
  • そこまでコントロールが良いのなら、白鳥?の近くに投げてほしい。
    平気で鳥に石をぶつける人の心は、どんな怪異よりも恐ろしい。

    2023/03/11/18:44

※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。

怖い話の人気キーワード

奇々怪々に投稿された怖い話の中から、特定のキーワードにまつわる怖い話をご覧いただけます。

気になるキーワードを探してお気に入りの怖い話を見つけてみてください。