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ヒトコワ

遺品整理士さんによるヒトコワにまつわる怖い話の投稿です

死後の約束
長編 2021/03/05 17:28 5,901view
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「これ盗みましたね?返してください」
初老の男が冷たく言い放つ。
亜希子さんは泣きそうな顔で、かばんから懐中時計を取り出して初老の男に渡した。

それから、私は亜希子さんに事情を聞いた。
娘と母親の仲は良好だった。遠く離れて暮らしながらも、こまめに連絡を取り合い、盆と正月には欠かさず一緒に過ごした。
亜希子さんの知らない内に、母親は宗教団体××に入信していた。そして、死後に財産の全てを寄付することを約束していた。いや、約束させられたのか。宗教団体に洗脳されたか、依存させられたか。娘と離れて暮らす母親の寂しさに、宗教団体××が言葉巧みに付け込んだのだろう。

後日、詳しく事情を調べた所、『亜希子さんの母が残した遺言書』は法的に有効であった。また、遺言書に書かれた内容の執行も娘さんへとちゃんと通知されている。母親が残した財産と呼べる全ての物は、遺言の通り換金されて宗教団体××のものになった。
亜希子さんにとって大切な、親の形見である懐中時計でさえ手元には残らない。
遺留分と呼ばれるわずかな金銭と。それに、母親が使用していた食器だとかタオルだとか。ティッシュだとか、下着だとか。亜希子さんの手元に残されたのはそんな物ばかり。

「死後、私の財産を全て宗教団体に寄付して下さい」

そんな遺言書きをあなたのご両親は残していませんか?
親がこの世に残した大切な遺品が、必ず子のものになるとは限らない。そんな救いの無いお話でした。

 ああ、それと。
『亜希子さんの母親が遺言書を書いた日付』からちょうど一ヶ月後に、亜希子さんの母親は死んでいる。
遺言を書いてすぐに死んでいる?
特に大きな持病もなく、入院していたわけでもない亜希子さんの母親。年は70代前半。死因は心不全。
「遺言書が完成したから母親は死んだ。その死には宗教団体××が関わっている」
というのはさすがに考えすぎか……
死の真相は私には分からない。

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コメント(2)
  • そうかそうか

    2021/03/06/15:18
  • 今話題になっとる宗教団体かな?

    2022/08/15/21:20

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