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不思議体験

かしわもちさんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

窓の顔
短編 2023/02/12 23:32 1,013view

私が数年前に体験した実話です。
拙い文章ですがお許しください。

私の家は築六十年はとうに超えている古く小さな一軒家である。母との結婚前から父がひとりで住んでいた家であり、当時はスーツを着た男性が寝ている父の顔を覗きこんでいたり、足を引きずるお婆さんの姿を見たりと時折怪異に見舞われていたようだが、母が嫁入り道具として母の祖母から譲り受けた立派な仏壇がその家に来てからはそのような怪異はピタリと止んだと父はよく話していた。生まれてから一度も怪異の類いなど経験したことのない幼い私は、半信半疑で父の話の内容を母に伝えると、母は、父が自分の見た夢を大袈裟に話しただけなのではないかと笑うだけだった。
なお、家の周囲は住宅地となっており、その一帯は何故か急病人が頻発し救急車が頻繁に訪れるため、近隣住民の間では「魔の土地」だと噂されていたが幸いにも死者が出ることはなく、噂自体も奥様方の間で茶化して揶揄されているに過ぎないものであった。

不思議な出来事には事欠かないような家だったが、実際に自分がそういった出来事を体験することはなく、次第に忘れて生活するようになった。

それから年月が過ぎて、私は専門学生になった。課題やレポートに追われて入浴が深夜をまわることが増えていた。その日も深夜一時を過ぎてしまったが、サッとシャワーを浴びて寝てしまおうと思い、浴室へと向かった。

浴室入り口を閉め、電灯のスイッチを入れる。

正面を向くと、浴室入口から見て正面にある曇りガラスの窓の外に肌色の何かが浮かんでいた。いつもなら、夜になると窓一面が黒で塗られているような光景なのだが、その中に際立って浮かぶ肌色を見てそれが何なのかすぐに分かってしまった。

人の顔である。
 
首から上が窓の外からこちらを覗きこんでいるのだが、深夜に曇りガラスの外から肌色が色濃くわかるということはかなりの至近距離にいることもすぐに理解できた。

だが、不思議な点があった。
かなりの至近距離にいるにも関わらず、肌色の顔の輪郭のみで目鼻などの造形は一切見られないのである。
そして、顔はやや斜めを向いており、浴室内の様子を伺うわけでもなければ、外から鍵のかかった窓を開けようとする様子も見られない。私は驚きのあまり、息を潜めてただじっと見つめ返すことしか出来なかった。

 
そのままどれくらいの時間が経過したかは分からない。肌色の顔のような何かは、スーッとゆっくり窓の下に姿を隠した。姿を消した後も注意深く窓を凝視していたが特別異常は無くそのまま顔が再度姿を現すことも無かったため、私は急いでシャワーを浴び、浴室を出ると、布団にくるまってさっきの窓の外のあれは何だったのかを考えた。

翌日、母にその出来事を話した。普段は何を話しても大抵のことでは驚かない母だが、この時ばかりは少々顔をひきつらせてこう返した。
「あんなところ、顔届くの?」

我が家は古い木造建築のため家の基礎が高く、外から浴室の窓を覗くには、相当高い身長が必要なのだ。近隣の住民には、そんな高身長の人間はいない。そもそも、深夜に灯りのついていない窓に顔を近づけて佇んでいるような用も普通ならまず無いはずだ。
それによく思い返してみると、家の周囲は砂利に囲まれており、砂利の音で誰かが外を歩いていることがすぐに分かるのだが、顔が窓の下の方へ姿を消したあと砂利の上を歩く音は一切聞こえなかったのである。

その後、あの顔は一度も現れることもなく、今はその家からも引っ越してしまったが、今住んでいる家の自室にも曇りガラスの窓がある。昼間であっても、ふと見た瞬間にまたあの顔が覗きこんでいるのではないか、と数年たった今でも閉めきったカーテンを開けられずにいるのだ。

あの時声をかけていたら、どのようなことになっていたのだろう。生きている人間とも、この世のものではない者とも分からないあの顔の正体は結局不明のままではあるが、世の中には知らないほうが幸せなこともあると思うことにして、不思議な出来事としてここに書き記しておくことにする。

聞いた話によると、かつて我が家があった一帯の古い住宅は取り壊されて、その跡地にマンションが建つとのことだが、新しく建つであろうその建物にまた怪異が起こらないことを祈っている。引っ越しなどで住居を移す際には、土地や建物にまつわる噂も是非調べて参考にしてほしい。あなたの住む処がどうか安全でありますように。

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