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不思議体験

とくのしんさんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

ギャグ漫画家
長編 2023/02/01 14:08 12,492view
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とある週刊誌編集者の体験談。

私は週刊誌の編集者をやっておりました。とある出来事がきっかけで出版社を退職しましたが、その出来事から十数年経過し、一人で抱えていくにはあまりにも辛いのでここで吐露させてください。

私の担当していた先生にS先生とおっしゃる方がおりました。ジャンルはギャグ、大変面白い漫画を描く先生でおられました。勢いのある作品を描くことで知られていた先生でして、そうそうこの作品はアニメ化にもなりました。

ただジャンル的にギャグ漫画とは飽きられやすいため、連載自体は4年ほどで終わりを迎えましたが、それでもこのジャンルを考えたら長寿作品と言えたと思います。編集部としてはまだまだ単行本の売れ行きも良かったですし、アンケート結果も悪くなかった。雑誌の巻頭から巻中に常に掲載順を保てる人気でしたから、編集部としてもまだまだ連載を続けて欲しい気持ちはございましたが、先生本人がどうしても連載を終わらせたいと申し出たのです。

先生はおっしゃいました。
「この作品の旬は過ぎたと思っている。ギャグはマンネリし、これ以上新キャラを増やして小手先で誤魔化したくない。まだ人気があるうちにこの作品を綺麗に終わらせたい」と。完璧主義なところがございましたから、編集部がどれだけ強く慰留しても連載終了の意思が変わることはありませんでした。

連載が終了したあと、先生は別ジャンルを描いてみたいとおっしゃいました。
「〇〇さん、僕は一度でいいから冒険活劇を描いてみたい。読者がハラハラドキドキするそんな作品を手掛けたいんだ」
編集長に先生の強い要望を伝えたところ、二つ返事で了承を頂きました。先生は既にプロットを作成しており、世界観や主要キャラの構成を相当前から練っていたようで、私も編集者の端くれとして、新連載の立ち上げに尽力しました。

前作の連載終了から半年、満を持して先生の冒険活劇漫画がスタートしました。
出だしは大変好評でした。キャラは魅力的だし、世界観もしっかりしている。魅力のある敵キャラに序盤から多くの伏線が張られ、いい意味で風呂敷が広がっていく。私も編集者として毎週ネームの打ち合わせを行うのが楽しみで仕方ありませんでした。

しかし、連載から3か月程するとアンケートの結果が悪くなっていく。前作のファンから「こんなのはS先生の作品じゃない」といった内容の感想が寄せられ始めました。連載と同時に開設した先生のSNSのアカウントにも同様の感想が多々寄せられました。先生の作品を楽しみにしているファンも多かったのですが、一部のアンチの荒らし行為が日に日にひどくなっていきました。

ある日、先生とネームの打ち合わせ中にぽつりと呟きました。
「今まで僕はネットを見ないようにしていた。前作の連載中に何度か某掲示板のまとめをみたんだよね。そりゃひどいこと書かれていてさ(笑)あんなの目にしたら僕なんか到底漫画家としてやっていけないと思ったよ。だからSNSはやらなかったんだけどね」
先生のSNS開設は我々編集部の強い意向で「これからはSNSが最大の広告媒体」などと、渋る先生を説得して開設していただいた手前、私はその言葉にひたすら謝罪を繰り返しました。嫌ならやめましょうとの言葉に
「ここでやめたら逃げたみたいで恰好悪いじゃない(笑)僕の作品の主人公はそんな弱くはないよ。それにSNSでファンとの距離が縮まっているのも事実。もう少しやってみますよ」
と笑って返してくれました。

今思い返せばここで強くやめさせるべきでした。

SNSのカキコミ、悪質なまとめサイトの影響もあったと思います。作品の人気がどんどん落ちていきました。編集部としても巻頭、巻中カラーを打ったり、人気キャラランキングや色々な企画を打ちました。しかし、結局先生の連載は巻末に置かざるを得ない程人気は落ちていきました。

先生の連載は決してつまらないものではなかった。よくできた漫画だったし、キャラも良かった。しかし目新しさがなかったのは事実。また前作が魅力的過ぎた。やはり前作のファンからすると「違う」と言わざる得ない気持ちは理解できないわけではありませんでした。結果、新連載から1年ほどで打ち切りになりました。打ち切りを通告するのは本当に本当に心苦しかった。しかし、それも仕事です。先生はそれを「わかりました」と受け入れてくれました。

失意のどん底と思われた先生は、それから3か月程してふたたびギャグ漫画を描きたいとおっしゃいました。私も編集部もその提案に賛成でした。先生はギャグ漫画でこそ輝くと誰もが思ったからです。

大々的に告知を打ち連載はスタートしました。
アンケートにも先生のSNSも「待ってました!」のファンの声が多数寄せられ、最高の船出を切りました。前々作のような勢いのある作品に誰もが連載を心待ちに。連載は順調に続き、1周年を迎えようとしていた頃です。

SNSにて、先生の人格を否定するようなカキコミがされました。
「お前のようなつまらない人間の描く漫画は本当につまらない」
「どこかで見たような薄っぺらいギャグだな。パクったか?」
前回のこともあったので、私は先生にこのアンチをブロックするよう伝えました。先生はしばらく様子を見るとおっしゃいましたが、やはり気にしている様子でした。
それからも酷いカキコミは続きました。ここまで書くか?というような内容が羅列し、編集部としても黙っていられない程でした。先生もアンチをブロックをしましたが、アカウントを変えては先生への攻撃を止めることはありませんでした。
作品にも悪い影響が出始め、人気はガタ落ち。編集部の中からは休載した方がいいのではないか、との声が上がるほどでした。一方、悪質なSNSへのカキコミについては、先生と相談しついに法的措置を取ることにしました。出版社の顧問弁護士に依頼し、開示請求を行うことにしたのです。

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コメント(6)
  • 悲しいお話・・・と思っていた最後!!一瞬で鳥肌が立ちました
    とは言え、漫画好きの私としては、作家先生と編集者さんの二人三脚の大変なお仕事、本当に頭が下がります。
    物心ついた頃から色々なジャンルの漫画を読み、漫画から人格が形成されたと言っても過言ではないので、素晴らしい作品を世に生み出してくださり本当に感謝いたしております。
    そして先生のご冥福をお祈りいたします。

    2023/02/01/17:22
  • 投稿者が悪くはないですよ。

    2023/02/01/20:38
  • これ実話として投稿されてます?
    実話ならあの人かもってすぐに思い当たる方が一人いらっしゃいますし、創作なら創作で実在してたギャグ漫画家と類似する点が多すぎてそこも怖いです。

    2023/03/15/18:04
  • ギャグ漫画家ってちょいちょい自殺する人出るんよね

    2023/06/01/23:36
  • おつかれぇい

    2023/06/21/13:37
  • 10年というのは関係ない人にとっては風化しネタにしてしまうのに十分なほどの長さの時間なんだなぁ。

    2023/10/22/23:57

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