おむかえ
投稿者:ねこじろう (114)
ザーーーーーーーーーーー
教室に響き渡るラジオの砂嵐音のような単調な雨音が、教壇に立つ教師の声を聞こえづらくしていた。
西野はふと、隣の机に視線を移す。
そこはかつてトオルくんが座っていた窓際の机。
でも今は誰も座っていない。
親の転勤で5月の連休中に、東京からこの地方都市に引っ越した西野は、地元市立小学校の6年1組に編入することになった。
トオルくんとは、たまたま席が隣同士になり友達になった。
色白でちっちゃな大人しい子。
家には行ったことはなかったが同じ方角で、たまに一緒に下校していた。
西野はふと、誰もいない机の向こう側に視線を移した。
薄暗いモノクロームな空間の中を銀色の滴がひたすら降り続いている。
そうだ、あの日もこんな天気だったんだ。
朝からひどい雨だった。
そう、梅雨入りしてから、ちょうど3日くらいが経っていた、、、
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放課後、西野が下駄箱の前で上靴を履き替えようとしていると、先に履き終えたトオルくんが「あ!来た」と、入口ガラス扉の前辺りを嬉しそうに見る。
降りしきる雨の中、
白いワンピースの女性が小豆色の傘をさして立っている。
トオルくんは女性に向かって笑顔で手を振ると、「じゃあね」と言って勢いよく走って行った。
その翌日もやはり雨だった。
この日の放課後も、トオルくんは学校入口のガラス扉の前に立って外を見ている。
西野が帰ろうとガラス扉を開く時、「まだ帰らないの?」と聞くと、
「もうそろそろ、母さん来ると思うんだけど」
と笑顔で言ったが、その目はどこか不安げだ。
もうしばらくすると生徒指導の先生が校内を見回りだし、居残りしている生徒は注意されるはずだ。
「ねえ、一緒に帰ろうよ。多分、途中でお母さんにも会うと思うよ」と言って西野はまたトオルくんの横顔を見るが、「でも、、、」と相変わらず未練深げに外を見ている。
すると突然「あ!来た!」と言ってパッとその顔が明るくなった。
入口前のエントランスに、昨日と同じ女性が小豆色の傘をさして立っている。
トオルくんは「じゃあね」と一言言うともどかしげにガラス扉を開き、どしゃ降りの中飛び出していった。
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