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ヒトコワ

窓際族さんによるヒトコワにまつわる怖い話の投稿です

人格の終着点
短編 2022/12/25 23:48 2,080view
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知り合いのDさんは50代の女性。
仕事はしていませんが、母の介護に追われる忙しい生活を送っています。

そんなDさんがよく言うのが「人は結局、若い頃接した人と同じようになる」ということ。
平たく言えば、若い頃に周りからいじめられていた人はボケ始めると周りをいじめるようになるし、若い頃に周りから愛されていた人はボケてもトラブルを起こしにくいということです。
もっとも、愛されながら人生を歩んできた人はなかなかボケることがないともいいますが。

そしてDさんの母は「植物を愛する優しいお母さん」として評判でした。
Dさんや夫、植物に優しいのはもちろん、ご近所さんやよく行くお店の人にも親切な素晴らしい女性だったといいます。

ところが。

年齢が進み、認知症が入ってくると次第に「お前お金盗っただろ!」「冷蔵庫にあったどら焼きどこやった!」などと怒鳴るようになりました。
もちろんすべては母親の勘違いであるわけなのですが、認知症が進んでくると次第にDさんに物を投げつけたり、怒って家中のものをひっくり返したりするといったことも増えていったそうです。
Dさんは最初こそ「話せば分かる」と思っていたようですが、今ではもう「暴力は力づくで止めるしかない」と諦めているのだとか。
そして、こういったことはかつて若い頃の父が母に対してやっていたことだったのだそうです。
今では間違いなくDVとして問題になる話ですが、当時はこんなことは当たり前で、それでも男にちゃんとついていくのが「良い女」としての条件だったのでしょう。
まあ、歳を重ねるにつれ父もそういうことはあまりしなくなったようですが。

ともあれDさんはこんな中、母の面倒を見るのも大変だけど、それより何より、自分が恐ろしくなることがあると言います。
Dさんは若い頃に付き合っていた人からされていたことを、母にしてしまいそうになることがあるというのです。

もちろん実行に移したことはありませんが、自分にとって老いやボケはそう遠くないことの話……
そして、もし自分が母親と同じように、理性をもって行動できなくなってしまったら……

それゆえか、Dさんは誰にも迷惑を掛けないようにピンピンコロリで逝きたいと言っていました。
それとずっと年下の私に対してDさんはこうも付け加えていました。

「50代になるのなんてあっという間だから」

自分には「老い」なんてまだ早いだなんて思っていたら、あれよあれよという間に歳を取り、周りの人や自分自身の老いに向き合わなくてはならないという現実は、若い時にイメージしているよりもずっと早く来るものなのでしょうか。
そして、もし家族が、自身が周りの人にとって怪物のような存在になってしまったら……
ともあれ、私は各々が幸せに暮らすこと、特に子供たちや若者の幸福を守ることは国の未来にとって思ったよりも大きな影響があることなんだろうなと思いました。

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