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ゲータレさんによる妖怪・風習・伝奇にまつわる怖い話の投稿です

山男の噂
短編 2022/11/23 21:20 1,444view
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私と幼馴染みのK君はいつも一緒に遊ぶ仲間でした。

K君のおじいさんは裏山を持っていました。山菜やタケノコを採るのにはもってこいの大きな山でした。しかし、子供たちは絶対に山に入れさせて貰えることはありませんでした、当時まだ小学生だった私達は、山の中で遊べるなんて夢のようで、何回も決まりを破ってやろうと悪巧みしましたが、親に怒られたくない一心で結局破ることはありませんでした。何故入れてもらえないのか、おじいさんに聞いてみると「戦争で亡くなった男が出る、山男だ凶暴で危ないからだめだ」と言うのです。小学生と言ったら好奇心旺盛、お化けなんてへっちゃら!そんな気持ちで聞いていました。

そんなある日転機が訪れました。おじいさんが病院へ出かける日がやって来たのです、しかもその日はK君に「山に入るな」という警告をし忘れていたので、私とK君と同じクラスのCちゃんとA君の4人で「お菓子・懐中電灯・救急セット・ライター・エアーガン」を持って山に入ることにしました。

道はひたすら一本道でしたが少し拓けた所に着くと3つに別れていました。1つは獣道で道っぽいと感じるだけです、2つめは道だと分かるように拓けています、3つめは少し不気味なほの暗い道でした。まだ日は明るい時間だったので、勇気を振り絞って不気味な方に進むことにしました。湿った空気と懐かしいような匂いがあたりを覆っていました。変な汗をかきながら一人一人腰に着けた紐を握りしめながらK君を先頭に進んでいきました。

何十分歩いたか、景色が変わらないので時間が感じられなくなって来た頃、突然K君が足を止めました。2番目にいた私に「人っぽいのがいる」と言いました。一番後ろのA君に伝えると、縄をほどいて前に出てきて様子を伺っていました。暫くすると、その、人っぽいのは落ちていたビニール袋だということがわかりましたが、ホッとした瞬間ガサガサという音がどこからか聞こえて来たのです。私達は一気に怖くなり体が動かなくなりました。心臓の音もうるさいくらい動いていました。おじいさんが言っていた山男なのか、それとも動物なのか、色んな事が頭を過ります、その時、「童子が4つ、どうけ」と後ろから声をかけられて、飛び上がりました。

後ろを振り向くと、藁の籠を背負ったおじいさんが立っていました。

「こなとこでどうけ」と言われ、独自の方言がある地域なので、すぐに事情を説明するとケラケラ笑われました。「この辺りじゃいのししもいるけ、危ないからもどりけ」と言われ、この先進むとどうなるか聞くと、さっきとは違う声のトーンで「けえれ」と言われました。「帰れ」と強めに言われた私達は怖くなり来た道を戻ることにしました、暫く、おじいさんは私達を見送るように見ていたと思っていましたが、数歩しか歩いていないのに振り返ると、おじいさんなどそこには居なかったのです。

今まで気づきませんでしたが、周りは小さなカサカサ音が常にしていました。まるで誰かが自分たちと歩いているような感覚がしました。私達は手を繋いで一生懸命走りました、あの拓けていた場所に戻った時には、辺りは夜になっていました。自分たちが入ったときはまだ朝だったのにと、時間が狂っているのだと怖くなったものです。K君の家に着くと、みんなの両親が私達の名前を一斉に呼び、山の入り口から出てきた私達を抱き締めたり叱ったりしてくれました。K君のおじいさんも安心仕切った顔と悲しそうな顔と少し怒った口調で「ばかもんが」と言葉を漏らしました。

私達が戻った時間は19時になっていて、入山してから11時間も経っていた事がわかりました。まるで、別世界にとんでしまったのかと思うくらいの時間でした。後日おじいさんに山での出来事を話すと、「分かれ道の獣道を降りると無縁墓地がたくさんあるんだよ、あと防空壕や戦時の後も残っている、そっちに行っていなくて安心したよ。あの辺りはそういった者たちとの境目なんだよ、反対側にも畑地区という場所があるけどもこちらには入らないようしっかり約束を結んでいるものだ、そのおじいさんの忠告を聞いて良かったと思う」と話してくれました。
私達もその約束を二度と破らないように、足を踏み入れる事はしなくなりました。おじいさんが亡くなった後も約束を守っています。

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