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ヒトコワ

ラーメン屋さんによるヒトコワにまつわる怖い話の投稿です

空想
短編 2022/11/05 01:26 1,021view
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僕は昔から空想が好きだった。
街ですれ違った可愛い子との結婚生活を想像したり、テレビで見たボス猫の世話をする空想にふけったり。そんな空想が好きだった。
ある日道で犬のフンを踏みそうになって、よろけた拍子に走ってきた自転車に撥ねられてしまった。
しかし、本当はそこに犬のフンなんて無かった。
普段空想しすぎて、脳が勝手に犬のフンを空想で生み出してしまったらしい。
このことを医者から伝えられ、「このままだと重大な事故に繋がりかねません。難しいとは思いますが、今後そういった空想を控えてください」と言われた。
そんなことは出来なかった。
スポーツも恋愛も楽しめずに、人生を諦めていたときに偶然空想の楽しさに気付いたんだ。人生の楽しみを奪われてたまるか。
そういって僕はそれからも空想をし続けていた。

ある日、家で昼寝をしていた。目を覚ますと、周りが炎に囲まれていることに気づいた。
どうやら隣の住民の寝タバコが原因で火事が起きたらしい。
僕は昔から正義感は強い方だったので、「火事だー!」と他の住民に呼びかけていた。
一通り声かけが終わり、非常階段を使おうと思いベランダに出ると、既に消防隊が駆けつけているのが見え、下には飛び降り用のマットが敷いてあった。
僕も早く逃げようと飛び降りかけた時、後ろから声がした。
「そのマットは空想です!」
そこには医者がいた。
「下は何もありません!飛び降りないでください!」
何、そうだったのか。まさかここで空想が仇になるとは。そう思ってやめようとした時にふと思った。

何故ここに医者が?
はっとした。この医者こそ空想なのか。危なかった、このまま取り残されるところだったと思い、一瞬の迷いもなく飛び降りた。
しかし、下には本当に何も無かった。
全身に痛みが走る。意識が遠のいていく。医者の言ったことは本当だったのか、ではなぜあそこにいたのか、どこまでが空想だったのか、考える暇もなく意識が無くなった。

その数日後、道で二人の女性が話していた。
「あら?確かここってこの前飛び降り自殺があったところよね?」
「本当だわ。亡くなった人はまだ若かったっていうし、何があったのかしらねぇ」
「噂によると、飛び降りる直前に『火事だー!』って何度も叫んでたそうよ」
「そうなの?でも、ここら辺で火事なんて無かったわよ?」

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コメント(1)
  • ご冥福をお祈りします。

    2022/11/05/22:14

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