海に消えた笑顔

中学生の頃、堤防を通って海の近くの学習塾に通っていました。その途中いつもドキッとする場所がありました。

そこは堤防のちょうど真ん中辺りで、小さなお地蔵さまが置かれていました。その場所は昔、小さな子供が遊んでいて海に落ちて亡くなった場所でした。

いつもお花やお菓子が供えてあり、通るのが少し怖かったのです。

ある真夏の昼下がり、塾の夏期講習を受けるために私はその道を自転車で通っていました。いつも通りお地蔵さまの前を通り過ぎようとした次の瞬間！

小さな男の子が笑い声をあげながら自転車の前に飛び出しました。私は咄嗟にハンドルをきってブレーキをかけました。ぶつかった衝撃はありませんでしたが、

男の子が心配で慌てて振り返ると、そこには誰もいませんでした。もしかしたら海に落ちたのかも！と、堤防からのぞいてみても辺りを見渡してもどこにも

誰の姿もありませんでした。

堤防の反対側には、海から引き込んだ小さな水路が低い場所にあり、その斜面には草が生い茂りフェンスもあるので、男の子はいったいどこから飛び出して

きたのか不思議でした。ふと、お地蔵さまが目に入りました。その足元にはいつも通り花とお菓子・・そして、ミニカー・・。

私は急に恐ろしくなって自転車に飛び乗りその場から逃げました。そういえば、ここで亡くなったのは男の子だったと聞いたような・・。

今でも鮮明に覚えています。自転車の前に飛び出した男の子の笑顔と笑い声を。男の子は今もずっとあの場所で遊んでいるのでしょうか・・・。