あなたには貸せません

　私（もりの）は新潟に転勤が決まった。私は生まれてこの方、地元を一度も離れて
暮らしたことのない井の中の蛙。大きな不安で一杯になったが、新天地に旅立つという
期待もちょっとだけあった。

　着任は2週間後。この間に住居を決め、引越して、ありとあらゆる登録住所を変更
しなければならない。忙しくなるのが、ちょっとめんどくさくも感じた。

　部屋は住宅サイトで探すことにし、検索条件を打ち込んでいてふと、困った。
旅行でも訪れたことのない都市だ。その住所には何があり、どうやって仕事場に行けば
よいのかさっぱりわからない。途方に暮れた私は、地図検索サイトで新潟市内の
めぼしい場所を見てみることにした。

　Google Earthとは素晴らしいツールだ。住所を打ち込んだだけで、日本中、いや

世界中の街や自然をまるでリアルタイムで見ているように感じることができる。
私は新潟空港の近隣や新潟市の中心地、商店街やちょっと離れた関屋分水路付近や
新潟港など、釣りポイントまで検索して随分と無駄な時間を費やした。
思えば、今までこんなに長い時間Google Earthを見ていたことがない。

　さて、こんな感じのところがいいな、というのが見つかった。その地域は新潟市西区。
どこがどういいと聞かれると困るけど、この辺がいいな、と直感したので、賃貸情報を
検索し始めた。
　
　そのマンションは飲食店が集まる地区のすぐ横にあった。２Kで築年数は経っているが
外観もきれいで、何よりも魅力的だったのは、賃料が家賃補助の範囲内だったこと。

　サイトだけではよくわからなかったので、今一度Google Earthを開けて、簡単な
住所案内と賃貸情報に載っていた周辺地図を手掛かりに探ってみる。四苦八苦して何とか
そのマンションを見つけた。

　検索しながら、「お、意外とスーパーが近い」とか「自転車で釣り場まで行ける距離
だな」とか知ったので、「ここを不動産屋に聞いてみよう」と決めた。

　その時、Google Earthの画面に奇妙なものが映っていることに気が付いた。
画面をスクロールすると、マンションのちょうど正面を見ることができる。その正面に、
誰かがマンションに入っていく男の姿が映っている。みなさんご存じの通り、
画面に映る人間や、車のナンバーは個人情報の保護を目的にぼかしが入っている。
そのマンションに入ろうとする男性(背格好から見て男性である）の顔部分もぼかしが
入っているのだが、その男性、全体が半透明なのだ。男性の姿の向こうには、
マンションの壁が透かして見える。実に奇妙な画像だ。