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ヒトコワ

遺書さんによるヒトコワにまつわる怖い話の投稿です

元カノと心スポに死にに行った話
長編 2022/10/31 07:06 3,706view

私には3年付き合った元カノがいて、その子が俗に言うメンヘラちゃんだったんです。
未成年なのにタバコは吸うわ酒は飲むわ。OD(オーバードーズ)もリスカもしていて、ちょっと電波系。
家庭環境もめちゃくちゃ悪くて。

私も当時親との関係が悪かったものですから、たびたび彼女の親が帰ってくる時間帯になっては二人で近所の公園で会ってました。

田舎の住宅地だから外を歩いてる人もいない、なんの音もしない。そんないつも通りの日です。

彼女が急に、死にたいって言い出したんですね。
生きている理由が見つからない、って。

私もぼんやりと死にたい時期だったから、否定する理由もなく、そうだねえって返事しました。

そしたらもう、止まんなくて。

多感な時期の衝動性は凄まじくて、近所で有名な心スポまで散歩することにしました。

死にに行く、とかそんな具体的なワードは出なかったものの、何をしに行くかはお互いある程度理解しあっていたつもりです。

バスもない時間だったし、あっても終点から20分は歩くようなところにある滝でした。
手を繋いで、寒いねえって言いながら、タバコ休憩挟んで歩いたんで、公園から1時間はかかったと思います。深夜3時ごろでした。

滝がメインと思われがちですが、実際は駐車場にあるトイレで焼身自殺があったので、そっちの雰囲気がすごいんです。道中お墓もあって、深夜の散歩には刺激的すぎるくらいでした。私たちは遠巻きにトイレを見て、何も言わずに滝の方へ行きました。怖いもの見たさで行った訳では無かったからです。

死ぬといっても、低い滝です。水底も浅く、そもそも滝の上から見下ろすような立地ではないので、滝の落ちてくるのを浅いところから見る、安全な心スポなんですね。

たまに人がいるんですけど、その日は私たちの二人きりでした。

がちゃがちゃの石を積んだだけのような曲がりくねった階段を降りていきました。街灯ももちろんないので携帯のライトをつけて、お互いの顔も分からない暗闇を突き動かされるように、ただ、ゆっくり、丁寧に、降ります。

肌の産毛に刺す痛い冷たい空気と裏腹に、彼女の手が熱かったことを覚えています。

階段の終わりは曖昧で、そのまま浅瀬に直結していました。そこに足をつけて、寒う!とかきゃあきゃあ言いながら、月の光でぼんやり見える滝を二人でじっと見ました。

吹き付けてくる滝の水しぶきで、写真には何も映らなかったです。

その階段の裏、つまり滝を川の流れに沿って下っていくと、首吊りスポットになっているんですね。それは暗黙の了解でしたから、じゃあ死ぬかーなんてテンションになるわけもなく、私たちは黙って足を水につけながら歩いていきました。

そうしたらだんだん左手に森が開けてきて、奥へ奥へといけば先述した首吊りスポットです。

私たちは手を離せませんでした。
死にたくて歩いているのに、この人間界とは隔離されたような野生の騒音を敷き詰めた場において、お互いの体温だけが生を実感する唯一のすべだったからでしょうか。

森の濡れた草のような匂いが、嗅いだことない嫌な匂いに変わっていきました。私たち、来ては行けないところに来てしまったのかな。後悔ではなく、期待したような気持ちになりました。

そうしたら、1分も歩いていないころ、何かを踏んだんですね。全身が毛を逆立てた猫みたいに敏感になっていて、私は不意に悲鳴をあげて、踏んだものにライトを当てました。

私の体重の乗った靴底で折れた長い草の中で、免許証と財布、携帯の画面が浮き上がりました。

私たちは一瞬何も分からないでいました。
短い風が彼女の長い髪の毛を揺らしたのが視界の端で見えたのをきっかけに、私は彼女の手を出したこともないような力で握り直して、蹴り挙げられた小石のように走り出しました。

そこからのことはよく覚えています。折れた草を目印に走って走って走って、細い川に戻り、滝が見えた時には泣いていました。

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コメント(3)
  • 札幌のあの滝ですね。
    実際に亡くなっている人もいますし、夜は本当に恐ろしいところですよ。
    ご無事で何よりです。

    2022/10/31/11:36
  • なしたっての方言で青森、秋田だと思ってましたが札幌なのですね。

    2022/10/31/11:45
  • ご冥福をお祈りします。

    2022/10/31/21:27

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