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心霊

ゼラニウムさんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

不思議な手
長編 2022/11/01 07:55 1,511view

私が新規オープンのカフェでバイトをしていた時の事だ。
そこは二号店で、かなり指導に力を入れていた。
面接の際は店側(正社員)の人も柔らかい雰囲気で、これなら楽しく働けそうだな、と思っていた。

いざ仕事が始まってみると当時カフェ仕事の経験がなかった自分でもおかしいのではないか?というような指導が続いた。
いくつか例をあげると、正社員の人に「メニュー表は見るな!」と言われ、「じゃあどうやって商品や値段を覚えれば…」と返すと「時間のある時にしろ!」と返された。
しかし時間がある時はある時で、「なんで今店内の掃除をしない?!」と怒られた。ちなみに掃除は5分前に行ったばかりである。
何かに理由を付けてとにかくメニュー表を見せてもらえない。当たり前だがそんな状況で値段や商品名を覚えられるはずもなく、オーダーの際にミスをしてしまった。
それはもう烈火のごとく怒られた。このあたりで私は店の雰囲気全体に違和感があることを感じていた。最初明るかった正社員の人たちの顔がおかしい。
どうおかしいのかといえば、皆鬼のような顔をしている。常にピリピリし、少しのミスもあろうものなら全員でその人を叱りぬく。
もはや異常だと思えるほど殺気に満ちていた。

しかしカフェ経験がなかった私は「こんなものなのだろうか」と思い我慢し何とか働いていたある日、いつものように厨房では怒号が響いていた。

私は「もっと早く!とにかく早く手を動かせ!!」と言われ使用済の皿をものすごい勢いで食洗器へと移し替えていた。
その食洗器はスライドさせて蓋を閉めるタイプだった。私は急いでスライドさせようとした時だった。

と音がしたような気がした。動かない。どんなに力を込めてもスライドさせることが出来ない。「え?」と思い手元を見ると食器カゴの中央部分に何かが居た。

いや、『生えて』いたのだ。食器カゴの下から食器カゴを掴むようにして、手が生えていた。
私は思わず叫び、そしてシンク下で誰か修繕作業をしていたのだろうか?と思い咄嗟に「ごめんなさい!!」と謝った。
私が大声でそう言うと、厨房全員の視線がこちらへ向いた。
そして誰かが「何に謝っているんだ?」と言った。そう言われもう一度見ると食器カゴを掴んでいた手はなかった。
恐る恐る食器カゴをスライドさせると、今度はいとも簡単に動いたのだ。
あんなに何度も力を入れても動かなかったのに。私は不思議に思った。見間違いだろうか。
こっそりとシンク下を確かめるも、管だらけでとても人の入れるようなスペースはない。

そもそも冷静になって考えればシンク下から台の上へなど開く筈がない。
ぞっとしたが、手が止まっていると怒られ、また作業へと没頭していった。

数日が経ったある日、私はかなり疲弊していた。そもそも希望通りのシフトに全く入れてもらえない。
当初週に4日~5日の予定が、1、2日しか入れないといった状況になっていたからだ。
シフトを調整している人にそれを伝えると、「高校生の子とか夏休み開けたらあんまり入れなくなるから、それまで待ってて」とあしらわれてしまった。
仕方なく次の月まで待ち、月初めにシフトを確認した。すると空くから、と言われたシフトはまったく空いていなかった。
それを伝えるとめんどくさそうに「うんうん、そうだねー入れないと困るよね~」みたいな感じで流されてしまった。

私はいよいよ「ここには居られない」と思い別の所を探した。
するとあっさりとすぐに次の仕事が決まった。
そして久々に出勤し、「次の仕事が決まったので辞めさせて下さい」と伝えるとあれだけ適当で雑な態度だった店長が青ざめた顔で詰め寄ってきた。
「なんで?!なんで辞めるの?!」私はその豹変ぶりに引きつつ、「元々出していた希望通りのシフトに入れてもらえなしですし、夏休みが明けても入れないじゃないですか」と今までの事もありやや苛立ちながら返した。
すると店長はやや俯きながら「そっか…そうだよね…分かった」と言い了承してくれた。
私は不思議に思いながらも、この店にすでに未練はなかったため淡々と仕事をこなしていた。が、ふと違和感に気づく。

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コメント(1)
  • 霊、土地云々よりブラック企業だよ。

    2022/11/01/16:17

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