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意味怖(意味がわかると怖い話)

件の首さんによる意味怖(意味がわかると怖い話)にまつわる怖い話の投稿です

息ぴったり
短編 2022/10/31 22:33 1,268view
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 その日、市の保健福祉課にとある有料老人ホームの入居者家族から苦情の申し立てがあった。
 苦情内容は「本人の様子を聞こうと電話をかけたが、誰も出ない」との事だった。
 こちらからも電話をかけたが、反応はなかった。

 その老人ホームは、3階建てで20室で市に登録されている。新しいが、どことなく安っぽい。
 私は、正面玄関のインターホンのボタンを押した。
 誰も出なかった。
 正面の自動ドアは電源が止まっていたが、鍵はかかっていなかった。
 自動ドアを押し広げ、狭い玄関ロビーに入った途端、強烈な臭気が鼻を刺した。

 廊下を進むと、より臭いは強くなった。

 それが何だか分からなが、生理的に嫌な臭いである事は分かった。
 食堂の前を通る。テーブルに椅子がセットされていない。全員が車椅子利用、この施設は要介護度が中重度の人ばかりを集めていた。
 その先が、入居者居室になっていた。
 一層臭気が強まる。
 どこかでラジオの音が聞こえている。

 一番手前の部屋の戸を開けた。
 介護用ベッドの上には、真っ黒な――恐らく人だったものが、横たわっていた。
 同時に、その黒いものは動き始めた。ハエの集合体だ。
 驚いて部屋から出て、隣を開ける。そこに死体、次も、その次も、全ての部屋は腐乱死体が「入居中」だった。

 警察の捜査と報道によれば、その施設の職員は慢性的にオーバーワークだったという。
 とある職員が「もう嫌だ、辞めよう」と思った。それが、偶然全員一致したようだ。
 入居者は2日が過ぎた時点で、半数が死亡していたとみられる。
 飲まず食わずで何日という話はあるが、それは健康な人の話だ。

 この件は、報道ではほとんど扱われなかった。運営会社の大株主が、マスコミにも政治にも影響力を持っていたせいだろう。
 職員たちの裁判も、残業が過労死ラインを超えていたため、執行猶予が付いた。
 それはそうだろう。彼らはただ、身の危険を回避しただけだ。
 施設は、運営会社と施設名を変え、営業再開した。
 寝たきりの要介護者が格安で入居できるという事で、満室で営業開始となったそうだ。

 今後も介護施設は必要だ。積極的な企業の参入は有り難い。

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