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窓際族さんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

オカルト系地味子Aの復讐
長編 2022/09/25 16:05 1,871view
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「人の願いがもつれた時、人はどこまでも恐ろしくなれる」

 これはユニークな学生が多いことで知られるW大学にて、知人のYが経験したお話です。Yは学生時代、オカルト系のサークルに所属していました。そこでは西洋黒魔術を中心に、ウィッカ(魔女術)、ハーブ(魔術に使う違法でないもの)、パワーストーン、ルーン、人工精霊、潜在意識などを扱っています。そしてそのサークルの特徴は「知識や理論と同じくらい、実践にも重きを置く」こと。ゆえにほとんどのメンバーがオカルトの知識を知って満足するにとどまらず、生活や学業、恋愛や就活において存分に活用していました。それはYも同様で、成績はかなり平凡だったにも関わらず最終的には仕事が楽なうえに安定している大企業への就職を決めることができました。

 一方、魔術の知識をポジティブな方向ではなく、ネガティブな方向に使う人もいました。もっともこれは「人を呪わば穴二つ」ということを知っている集団ゆえかなりの少数派でしたが……。反対に言えば「自分が死のうが破滅しようがどうでもいい」と思えるからこそこういうことができるわけで、そんな人たちは皆一人の例外もなく恐ろしい結果に終わってしまっていました。例えばYに近かった女子学生のAさんはえげつない復讐をしっかり果たし、最終的には精神病棟暮らしとなりました。

 何がAさんをそこまでの復讐に駆り立てたのか? それは浮気です。Yによれば、Aさんはこのサークルに入った当初は地味めな感じの、よくあるような普通の学生だったそうです。趣味は読書とウィンドウショッピング。特に性格に難があるわけでもなければ生活や学業に困難を抱えているわけでもなく、むしろ穏やかな性格でYを含む多くのメンバーと良い友人になっていたそうです。そして、そんな彼女が魔術の技術を向けた先は恋愛。AさんにはW大学に入った1つ上の先輩の恋人がおり、Aさんは彼を追ってW大学を受験、見事合格したのでした。学部が違うので2人が通うキャンパスは異なるものでしたが、それらは大きな公園を挟んで徒歩10分程度の距離しか離れていないので会うのは簡単。言うまでもなく、初めのうちは2人の恋愛はとても順調でした。

 ところが。Aさんの彼氏は何を考えたのか、同じ学部の女の子と恋に落ちてしまったのです。それが発覚したのはW大学近くの駅付近の路上にて。ある夜、YやAさんを含めたサークルのメンバーが飲み会の一次会でたっぷりと楽しんだ後、二次会のカラオケに行こうとカラオケ店の前まで来たところ、こともあろうにそのタイミングで、Aさんが知らない女と2人きりで手をつなぐAさんの彼氏が出てきたのです。

「ねえ、これ、どういうことなの?」

「えっ、何でお前がここにいんだよ!?」

すぐに彼氏に詰め寄るAさん。テンパる彼氏。何もできないでいる女……酔って楽しい気分でいる学生やサラリーマンがあふれる夜の街は、すぐに修羅場の舞台となりました。彼氏が「これは実験で班が一緒になっただけの人で……」だなんて言っても聞きません。彼氏の顔にビンタ、ビンタ、そしてキック! もはや相手をKOしてしまいそうな勢いです。結局サークルの女性メンバーが取り押さえて止めにかかり、その時は彼氏に土下座させて女とは別れるという話になりました。

 大人数の前で謝罪、誓約させたんだし、もうこれでさすがに浮気はねーだろ……Yは、それからしばらくはそう考えていたようです。しかし、事態はそう甘くはありませんでした。あれから一週間もしないうちに、夜の街でYは見てしまったのです。とあるファーストフード店にて、2人きりで仲睦まじく食事をしているAさんの彼氏とあの女を……! Yは迷いました。これをAさんに伝えるべきか否か……。しかし、その悩みはほどなくして無駄なものだったと分かりました。なぜならその様子をAさんと同じクラスの女子が見ていたからです。

 その辺りを境に、Aさんはやつれた様子でサークルに来ることが多くなりました。さらに日が経つと目の下にはクマができ、服はシワシワ、髪はボサボサといった状態に。今風の言葉で言うならセルフネグレクトというやつでしょうか。また、彼女の研究の対象は恋愛に関わることから復讐に関わることへと変わっていきました。もちろんYを含むサークルのメンバーたちは心配して、何なら集団で彼氏と話をつけてもいいとさえ申し出ましたが、彼女はそれを丁重に断りました。そして、なかなか口にすることがなかった彼氏との様子を伝えました。「もう女とは見られないって言われて別れた」と。

 「いやそれならなおさらあの浮気野郎をシメなきゃダメだろ」とYは言ったそうですが、その時のAさんはもう完全に元カレのことを諦めていたそうです。「もう彼の心は私の方へは戻らないから」と。代わりにAさんの頭は浮気相手への復讐のことでいっぱいでした。「絶対に殺さないから」「これから老衰して死ぬまでずっと、死んでからもずっと、地獄の苦しみを味わってもらうから」……その時のAさんの様子は、まるで妖怪のようだったそうです。目は血走り、口は半笑いで……少しでも止めたりツッコんだりしたら刺されるんじゃないかというような雰囲気で、Yをはじめ他の誰もAさんを止めなかったようです。

 それから数か月後。Aさんはついに復讐のための術とプランを完成させました。これはモリオン(黒水晶)や黒針ルチルをはじめとしたパワーストーンを使って学内に大きな結界を張るというもので、これをうまく作動させることができればあの女がキャンパスのどこにいようとも「無意識的に自分で自分を攻撃する命令」をじわじわと埋め込み、一生を台無しにさせることができるという凶悪な性能を誇っていました。なるほど大学生である以上平日の多くの時間をキャンパスで過ごすわけで、あの女は退学でもしない限り逃げようもありません。ところが、これには1つ重大で根本的な問題がありました。そのキャンパスは幸いにも長方形に近い形をしていて結界が張りやすいとはいえ、縦約130m、横約355mの街中にあるものとしてはなかなかのサイズのもの。いくらAさんの恨みのエネルギーが大きいとはいえ、こんな大きさの結界を維持することなどできません。それにキャンパスに同じような類の結界を仕込んでいる人間やサークルは他にもいましたから、それらとの競合も問題でした。少なくともサークルの先輩方が卒業記念にと各キャンパスに密かに仕込んだ守護と繁栄の結界とは真っ向から競合してしまいますし、強度や安定性もそちらの方がずっと上です。

 Yはこれに懲りてAさんの復讐が失敗し、新たな恋愛に踏み出せればいいなと思っていました。そしてそのためにカイヤナイトやフローライトといった精神を整えるパワーストーンを勧めたりもしましたがまったくの無駄。Aさんは大学の研究者たちにも全く負けないくらいの熱意で術の改良に没頭し、結果サークルの上級生たちも考えつかなかったような代物を完成させてしまいました。それはできるだけ簡単に言うなら「狙った特定の人間に自身のエネルギーを捧げ、性のエネルギーや性質を爆発的に強化する」というもの。必要なリソースは相手と自分の身体の一部だけ(髪の毛やツメなど)と簡単で、使い方もビーコンを地中でも地上でも良いのでどこか見つかりにくいところに置いておくだけと簡単。しかも仕組みが単純な分射程範囲も10km以上とかなり広く、その範囲内に自分と相手が両方いなくてはならないという制限はあるものの簡単には逃げられやしません。しかも悪意ある攻撃ではないので他の守護の結界などを通り抜けるというオマケ付き。

 おっと、これだけではどうしてこれが復讐になるのかまるで説明になっていませんね。これはやることは単純ながら実は何重もの復讐を内包しているという恐ろしいものになっています。まず単純に、誰かにその器以上のエネルギーを注ぎ込むと人はその身体や精神に異常をきたします。それもエネルギーの器を大きくする訓練をまるでやっていない一般人に2人分のエネルギーを注ぎ込めば、そりゃもう間違いなく健康ではいられないでしょう。さらにこのビーコンは女性の「エネルギーを受け取る性質」と「男性を惹き寄せる」性質を爆発的に、そして効率良く強化します。その結果どうなったか……ああいう男と変わらず付き合っていた女のことです。彼女はあっという間にヤリ●ンビッチ化し、今度は元カレが浮気に苦悩する番となりました。しかもビーコンの影響下にある彼女はヤってもヤっても足りない状態だったでしょうね。早い話、本当は満腹で胃袋がはちきれそうなのにひどい空腹に苛まれながら様々な食べ物を詰め込んでいるというようなものです。無論、彼女が心身共に無事でいられるはずもなく、無事寝たきりになって学業どころか普通に生活するのも不可能になったようです。また元カレも体調を崩し、結局地元に帰ることに。

 一方負のエネルギーを送り付け続けていたAさんもまた精神を壊し、精神病棟送りになることに。しかし、その直前の彼女はとても満足そうな笑みを浮かべていたのだとか……。もちろん、他のサークルメンバーの中には彼女を救おうとした人もいましたが、変に巻き込まれるとどえらいことになってしまうため結局どうにもなりませんでした。Yを含む何人かはビーコンを破壊することを提案しましたが、当然ながらこういう術ではビーコンが破壊されたり、対象を勝手に変更されたりしたときのことも考えているはずで下手に手を出すこともできず。最悪サークルのメンバーが知っているビーコンはダミーの可能性すらありますし、同様のビーコンが秘密裏にいくつも仕掛けられている可能性もあります。しかもそのビーコンはかなりコンパクトなので、全てのビーコンを確実に破壊するとなったらもはや学内どころか町中に巨大隕石でも落とすしかないかもしれません。つまりは除去が不可能なわけです。言うまでもなくサークルはAの研究の成果を封印しました。もうこんなことをする人間が出ないように祈りながら……。でも、人間というものは時代が下っても大きくは変わらないもので、また繰り返すんですよね。ああ、人間という生き物ってやつは……

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コメント(2)
  • 人間のエネルギーで復讐が出来るですね。

    2022/09/26/01:46
  • 精神病棟で済むならやりたいわ……

    2022/09/26/10:18

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