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ヒトコワ

件の首さんによるヒトコワにまつわる怖い話の投稿です

火葬場にて
短編 2022/09/19 21:45 3,635view
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 これは火葬場に勤務する友人から聞いた話である。

 研修期間を終えて初めて火葬業務に就く時、友人は先輩から注意された。
「――火を点けた後は、声がしても開けるなよ」
「えっ、なんですかそれ。悪い冗談ですよ」
「冗談じゃねえよ」
 先輩は真顔だった。
 死体は医師が死亡診断したものだ。生き返る道理がない。そう自分に言い聞かせつつ、友人はマニュアル通りに点火、火葬を開始した。
 燃え落ちていく白木の棺桶が、チェック用の窓から見える。
 火葬が進むが、死体が動いたり喋ったりはしない。やっぱり先輩のホラ話だ、と、心の中で溜息をついた時。
 うめくような、唸るような声が聞こえ始めた。

 先輩の悪戯かと周囲を見たが、誰もいない。
 間違いなく、今燃やしている死体の方からだった。
 やっぱり死んでいないのに火を点けてしまったのか。
 慌てて開けようとしたところで、先輩の言葉が頭を過ぎる。
 そして程なく、声は止んだ。

 退勤時間になり、友人は先輩と更衣室で会った。
「無事にやれたか?」
「は……はい」
「……声、したのか」
「あれ、なんなんですか?」

「あれなぁ」
 先輩やあまり思い出したくないような顔で言った。
「肺が燃える時に、声帯に空気が流れる事で出る音だ。通常、死ねば声帯を動かす筋肉が弛緩するから音なんか出ないんだが、ごく稀に鳴る形になっている事があるんだよ」
「そうでしたか、なんだ、驚かさないで下さいよ!」

 その後まもなく、友人は仕事を辞めた。
「そりゃあ、あの時火葬を止めなかったからだよ」
「先輩に言われた通りにしたんだろ?」
「……そうじゃない。俺は思ってしまったんだよ」
 友人は俯く。
「幽霊にせよ生きていたにせよ、このまま焼いてしまえば、誰にも分からない、ってな」

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関連タグ: #声#心霊#火葬場
コメント(1)
  • 怖い不気味だ。

    2022/09/20/09:26

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