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心霊

もりさんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

火葬場近くのトンネル
長編 2022/09/19 09:59 2,318view
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私の住む長野県は、ご存知の通り山に囲まれた日本の屋根とさえ呼ばれる県です。もちろんそんな山の中では、車同士のすれ違いも困難な程狭い、山と崖に挟まれた山道も多くあります。

中でも県南の方面では集落同士を繋ぐ道がその山道しかない地域も数多く、その周辺に住む人は通学・通勤などに不便を感じながらも、安全運転を心がけながらその道を生活道路として使っています。

しかしそんな道の中で、珍しく地元の人間のほとんどがスピードを上げて通り過ぎるトンネルがあります。木に辺りを囲まれている為に昼間でもうっそうとして暗いそのトンネルは確かに不気味な雰囲気を醸し出していますが、地元民がスピードを上げて通り抜ける理由はただ単純に雰囲気が怖いからという理由だけではもちろんありません。

そこは、その地域ではとても有名な「出る」トンネルなんです。

トンネルの中で人が俯いて佇んでいる、バックミラーに明らかに同乗者ではない人の顔がうつっていた、車の天井に何か重い物が落ちてきた音を聞いた。そんな、割と良く聞くようなありがちなホラー体験をした人達が数多くいます。

何故、そのトンネルでそういったエピソードが絶えないのか。それはトンネルがある場所に関係していました。

そのトンネルの近くには、今は既に使われていない火葬場跡が存在しているのです。

かなり昔に使われなくなった火葬場と聞いていますが、祖父母世代の人達はそこには昔確かに火葬場があり、心霊現象が起こるのはおそらくその火葬場に原因があるのだろうと口を揃えて言っていました。

今の時代に比べれば医療技術はもちろん随分と低かったでしょう。そうなれば、まだ生きたかったにも係わらず不遇や後悔の中で亡くなる人も多かっただろうと考えられます。

そんな無念の中で亡くなった人達が弔われた火葬場なら、今も自分の死に納得できずにいる人も居るだろうと考えるのも普通ではないでしょうか。

そしてその火葬場近くのトンネルで起きた心霊現象の中でも最も私がぞっと寒気を感じたのは、私の友人が教えてくれたエピソードです。

友人はその日、姉と一緒にドライブに出掛けていたそうです。元々山道の運転に慣れている友人は、割と大雑把で細かな事を気にしない性格で、その日も調子良く車を飛ばしてその道を走っていました。

一方、友人の姉は心霊と名のつくものにめっぽう弱く、友人がその道を通ろうとしている事をだいぶ嫌がっていたそうです。

なんでも、心霊現象が苦手なのは友人の姉がいわゆる「見える」人間だかららしく、これまでも何度かそういった話を聞いていた友人は少しの悪戯心からその道を通ることにしたのでした。

そして件のトンネルが近づくと、友人の姉は少し青ざめたような顔をしながら友人にやめようと何度も告げたそうです。

しかし友人がそれを聞くような事はなく、車はついにトンネルへ。

さぁ、路肩に出るかバックミラーに映るか。心霊現象をほとんど体験した事のない友人が期待を胸に車の速度を少し落としてトンネルを走っていると、反対車線に対向車の灯りが見えました。

細い山道に作られたトンネルなので、勿論トンネル内部も車同士のすれ違いはぎりぎり出来る程度の広さです。

友人は仕方なく路肩ぎりぎりまで車を寄せて、更に速度を落として対向車とすれ違うことに。

対向車の運転手は礼儀正しく、ハンドル隙間に掛かる程まで頭を深々と下げて通り過ぎていきました。

そしてなんとか対向車をやり過ごしてほっと一息ついたのもつかの間、黙り込んでいた友人の姉が急に「早くトンネルを抜けて!!」と凄い剣幕で叫びました。

最初はどうしたのかと思った友人も、姉のあまりの剣幕に押されてアクセルを踏み込んでトンネルを抜けました。そしてトンネルが見えなくなった頃に震える姉に声を掛けたそうです。

「何か見えたの?」と青ざめる姉に友人が問いかければ、姉は「あんた見えなかったの?ハンドルの所・・・」と絞り出すように声を出しました。

ハンドルの所に何かあっただろうかと友人は先程すれ違った対向車の事を思い出し、そしてその光景を思い出した直後に背筋を凍らせたそうです。

考えてみれば、いくら灯りががあったと言っても薄暗いトンネルの中の事。なのに何故対向車に乗る人間の顔をはっきり見る事ができたのか。

そして、運転をしている人間がどうやってハンドルの隙間まで頭を下げられるというのか。

そのあまりに異常な状況にようやく気が付いた友人は、震える手でハンドルを握り家まで急いで帰ったそうです。

「あれは間違いなく人じゃない。だって、ありえないだろ?よく思い出してみれば、あの時あの顔、笑ってたんだ。」そうその時の体験を語った友人は、それに、と言葉を続けます。

「あと、姉が言ってたんだけど、」そう前置きして話してくれた事は、ドライブを終えて何とか家に着いた友人の姉が教えてくれた事でした。

「無事に帰って来れたから言うけど」と喋り始めた姉によれば、ソレが居たのはハンドルの所だけではなかった、との事でした。まだ居たのか!?と驚愕した友人に姉が伝えた所によると、もう一体はなんと対向車の下にしがみついていたのだと言うのです。どこか行きたい所にでもあったのかな、と言う姉の話を聞きながら、友人は対向車を本当に運転していた人は大丈夫だったのかと気にしていました。

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