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心霊

すだれさんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

泣き声は背後から
長編 2022/09/11 12:30 3,195view

若い頃…掛け持ちしたバイトに明け暮れていた頃の話。

接客業を中心に色んな職場を経験したが、従業員の中にはいわゆる「人ならざる存在を感じる人」が少なからずいた。
大概はその姿が見える、というタイプだったが、後輩である彼は「聞こえる」と言った。

「いきなり耳元で何か言ってるのが聞こえるんスよ。ボツボツって聞き取れないこともあるけど、聞き取れちゃった時は逆に怖いスね」
「聞こえる範囲は耳元だけ?」
「いや、目の前にいる人の身近にいるヤツとか。取り憑いてる?っていうんスかね。あっでも守護霊みたいなのもいます」
「声で関係性までわかるのか?」
「そっスね。血縁かどうかとか害あるかどうかとか結構わかりますよ」
「声、音と情報としては限定的に感じるが、本人的には鮮明というか、得られる情報の解像度は高いんだな」
「何なら先パイの背後霊つか、守護霊の声とかも聞いてみましょうか?」

「いや、そこまでしなくても君の話は信じてる。実際に君にはそういう存在の声や音が聞こえているんだろう」
「…ふーん。先パイ、俺みたいなヤツからしょっちゅう変人とか言われるっしょ?」
「しょっちゅうじゃない。ほんの稀にだ」

心外である旨を顔面で示せば後輩はケラケラと笑った。彼の体験談は後日聞かせてもらう約束をした。「先パイの賄い食いながら話します!ゴチっす!」と平然とオプションを加えてくるあたり甘やかされるのが上手な後輩だなどと思った。

それとは別の日のこと。
繁忙期だった店には普段より多くの従業員が入っていた。夜間バイトだった後輩と、既婚子持ち社員の上司はこの日初めて顔を合わせた。その場には自分もいて、集まった者たちで他愛ない話をしていた。

「この時期は毎年実家の方に帰省してると聞きましたが」
「ああ、今年はね、妻と子供だけ先に行かせたよ。このデスマーチ最終日を乗り越えたら俺も実家に合流だ」
「さながら単身赴任のよう…お子さんの声とか奥さんとか恋しくなるんじゃないです?」
「ハハ…そういえば君は?恋人と夏祭りデートとかないの?」

「パンパンに詰め込んだシフトで察してほしいですね…」

予定が仕事で埋まってる事実に空笑いしてると、普段よりずっと大人しい後輩が後ろから袖を引く。
先パイ、と、これまた普段からは考えられないほどか細い声。
目の前の上司に聞こえないように声のボリュームを落としてるのだと気付くと同時に一言。

「ヤバいです」

と後輩が息を漏らした。

「さっきから上司?の後ろからめっちゃ声がします」
「何だと…?」
「多分…多分上司の子で」

「「パパ」「あつい」って泣き声が…ずっと…!」

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