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心霊

とくのしんさんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

真夜中のお誘い
長編 2022/08/02 11:29 4,753view
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真夜中のドライブで不可思議な出来事に遭遇したことはありますか?

私はあります。いくつか体験談を挙げると、真夜中の全く民家のない山道を一人歩くお婆さんに遭遇したり、2週続けて同じ場所で対向車が消えたこと、目の前で女性の足だけが通り過ぎたことなどなど・・・
これから書くお話もそんな他愛のないありきたりなお話になります。

ご存じの方も多いと思いますが、一昔前に頭文字Dなる漫画が流行しました。いわゆる走り屋をテーマにした作品で、一世を風靡したものです。どうでもいいことですが私は頭文字D派ではなく湾岸ミッドナイト派でしたが、頭文字Dの真似事はよくしたものです。

そんな時代、走り屋もどきをしていたときに知り合った吉田という男がいました。見た目はまんまチャラ男、見た目通りの性格で話が面白いヤツでした。スポカーよりもVIPカーやミニバンが似合うヤツでしたが、吉田はランエボⅣを愛車にしており、仲間内ではそこそこ速い方でした。雑誌に載るようなホイールやらパーツ類をとっかえひっかえする羽振りの良さで一際目立っておりましたが、何のことはない農家の長男ということで親に全部買ってもらっていたということを、こっそり私にだけ話してくれたことがありました。

そんな吉田があるとき事故を起こしたという話を聞きました。命に別状はないが近くの総合病院に入院したと。私は頃合いを見てお見舞いに行くことにしました。
吉田は肋骨と大腿骨を折る大けがを負ったそうですが、軽口は相変わらずで、私を見るなり軽い挨拶をしてきました。元気そうな吉田に事故の原因を訊くと「マジな話だから笑うなよ」と珍しく真剣な表情で前置きをしてきました。聞けば同じ話を両親にしたそうですが、信じてもらえずこっぴどく怒られたとか。おかげで車を買って貰えそうにない、と嘆いていたのを覚えています。

事故当日、近くの峠を吉田が一人攻めていたときのことです。慣れ親しんだ道を走っていると前方に一台車が走っているのが見えたそうです。テールの形状からミラあたりの軽自動車だというのはわかったそうで、当時そのあたりに速くて有名なミラターボ乗りがいたこともあり、そいつかと思い吉田は追いかけました。相手はゆっくり流していたそうで、見る見るうちに距離が縮まります。

大きな右カーブに差し掛かったあたりで射程圏内に詰めたという吉田。このコーナーを抜けると、勝負を仕掛けやすい道に出るため「煽れば勝負に乗るだろう」と吉田は気合を入れました。

相手はノーブレーキで右コーナーに侵入、吉田も後に続きました。右コーナーの出口あたりでアクセルを踏み込む吉田。「ここだ!」と思った矢先、前を走っていた車が消えていたというのです。

コーナーを抜けたあとは見通しの良い直線に近い少しうねった道が続きます。何が起きたかわからず戸惑ったそうです。しかしさすがは有名どころ、一瞬で置き去りにされたと吉田は気持ちを切り替えて追いかけることにしました。少し前にブーストアップし、新しいタイヤに履き替えたばかりということもあり、吉田もかなりノッていたので「どうしても有名どころと勝負してみたい」と気が逸っていたといいます。

しかし走れど飛ばせど追いつけません。格が違うのかと半ば諦めかけて流し気味で走っていると、前方で先程の車がハザードを点けて停車しているのを見つけました。見ると運転席側のドアに女性が一人こちらに手を振っていたそうです。白いTシャツにデニム、髪は長く細身だったといいます。

有名な走り屋と同じ赤い軽自動車でしたが、車種が違うことと乗車していたのが女性ということで、目当ての相手ではなかったと少々落胆したそうな。しかし、手を振っていたのが女性ということで、吉田は美味しい思いができるかも?気持ちを切り替えて、停車している車の少し先で止まりました。いざ降りようとシートベルトに手をかけたとき、美人局だったらどうしよう?と一瞬冷静になったといいますが、チャラ男らしくまぁ大丈夫だろうと自分に言い聞かせたそうです。

「オーバーヒートですか?随分飛ばしていましたねw」などと掴みはOK的な一言を考えながら、停車していた軽自動車へ向かいます。軽自動車のライトが眩しく、視界を遮られながら運転席の近くまで歩いていく吉田。

「こんばんは。大丈夫ッスカ?」

吉田が声をかけましたが返事はありません。あたりを見ると、人影はなくいたはずの女性がそこにいないのです。「やっぱり美人局か」とあたりを警戒しますが、人が出てくる気配はなかったといいます。

「おーい」
「誰かいませんか」

何度読んでも返答はありません。まさか崖下にでも落ちたかと思って、身を乗り出してガードレール下を確認しますが、闇夜の中では何も見えません。段々とそこに取り残されたような恐怖に包まれた吉田は一目散に逃げることにしました。

“何かヤバイものだったのかもしれない”

そんな恐怖に何度もルームミラーやサイドミラーで背後を確認したといいます。しかし追いかけてくる車はいません。しばらく下っていると湖が見えてきました。ここまで来ると峠の終わりを意味します。吉田はほっと一息ついて安堵しました。

大きなヘアピンカーブを曲がり、湖入口に差し掛かったところ・・・
あの女性が先程と同じように手を振って立っていました。しかも先程と同じように赤い軽自動車も停まっているじゃありませんか。追い抜かれた記憶はもちろん、湖までは一本道なのでショートカットできるような道はありません。手を振る女性を見た瞬間、この世の者ではないと直感し、身の毛もよだつ恐怖に襲われたといいます。浮足立ちながらもアクセルを踏み込み、女性を視界に入れないよう通り過ぎました。

通り過ぎたあと恐怖でミラーを直視できなかった吉田ですが、怖いもの見たさというか、遠ざかったという安心感を得たいがためか、アクセルを緩めながらつい後ろを振り返ってしまった。停車していた車のライトが不気味に輝いていたのが見えたそうです。

「追いかけてくるかと思ったんだよw」

よく後ろ振り返ったね、という私の質問に吉田は笑って答えました。
吉田は話を続けます。

誰もついてきていないことを確認した吉田が視線を前に戻したときでした。
何者かの白い手がステアリングを握っていることに気づきました。自分の手ではない手に吉田は思わず悲鳴を上げたといいます。

ステアリングを握った白い手は電柱に向かって舵を切り出しました。吉田は「このままだと電柱に突っ込む」とブレーキを踏みステアリングを必死に戻そうとしましたが、まるでブレーキがロックしたようにタイヤが滑り出し、そのまま吸い込まれるように電柱に突っ込んだそうです。

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