願いを叶えてくれる人形

　T県の某所に住んでいたK一家は、とある霊能力者兼魔術師から変わったものを購入しました。それは「願いを叶えてくれる人形」。使うにはお世話をしたり、優しい言葉をかけたりする必要があるという手間があったそうですが、その威力たるや凄まじいものだったそうです。

　しかしこの人形を買ったK一家の母親は、やがて家族内でこの人形を独占するようになりました。今までその人形は息子や娘ともたくさん遊んでいたのですが、彼らから無理矢理人形を取り上げ、許可なく触ることを禁止すると厳命したのです。ところが大人というものは忙しいもので、特に母親ともなると人形1つにいちいち構っていられないもの。そのうち母親も含め、家族の誰もがその人形のことを忘れてしまい、その人形は長いこと押し入れの奥に無造作に押し込まれていたそうです。

　それから15年程経ったある日のこと。大掃除で件の人形を見つけた兄妹は、母親に見つからないようこれをこっそり持って帰りたいと考えました。それぞれ家族や仕事があるし、叶えたいことはいくらでもある。それにすごい力があるのに、こんなところに押し込められているのはかわいそうだと。ところが、まさかこんな人形を2つに分けることはできません。結局、男なんだから（家族の経済状況により重い責任がある）ということで兄の方が持って帰ることになりました。こんなものを手に入れた兄はウッキウキ。さっそく様々なものをお願いしたそうです。

　ところが……兄の願いはまったく逆の形で実現しました。たくさんのお金を願ったのに仕事はクビになり、より幸せな家庭を願ったのに紆余曲折あって離婚となり、趣味でもあった愛車やバイクはどちらも交通事故で廃車になりました。これを受けて兄はその人形をとある河原に捨てたそうですが……何かの間違いで誰かに拾われていないことを願うばかりです。