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妖怪・風習・伝奇

すだれさんによる妖怪・風習・伝奇にまつわる怖い話の投稿です

押し入れの怪音
長編 2022/08/01 20:51 4,295view
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心霊体験を聞かせてくれる友人が、子供の頃に体験した話。

「離島も、離島にある本家も。あそこという場所が嫌いで仕方なかったんだ」

本土に住んでいた友人一家は、何か集まりがある度に離島に構える本家へ赴いた。友人の家はいわゆる分家で、複雑な事情で特に肩身の狭い立場だった。

「子ども心ながらにあの場が嫌いだった。霊感?って感覚的にも気味悪くて…母親も霊感あって嫌がってたんだけど、集まる奴らに対しても何か変に感じてた。
親戚の…本家筋の大人達は毎晩酒を飲んでは暴れ回って、後片づけをするのは俺ら分家の奴らだった。同年代の本家の子は何か叫びながら殴ってくるし、遠縁のお婆さんはボケてんのか俺の事を昔死別した孫の名前で呼んでくる。その何もかもが歪んで見えて、何であんな場所に船酔いを耐えてまで行かなきゃならないんだと駄々をこねたこともあったよ」

友人は酒宴が開かれる間はなるべく隅の方で過ごした。酔って暴れる大人に関わりたくなかった。
忙しなく親戚の相手をする母には声をかけずに手洗いに立ち、屋敷の長い廊下を1人歩いた。キシリと廊下を踏む音だけが響く。つかの間の静寂が心地よくて、友人は3つ先の明かりと喧騒が漏れる部屋に帰るのが億劫になった。どうせあの場の誰も、子ども1人減ったことなど気付かないのだから。
歩を止め辺りを見渡すと、

チリン、

不意に何か聞こえた。鈴だ、と当時の友人は思った。

チリン、チリン、リリン

音の出所を探る。足は部屋とは真逆に向き、もっと鳴らしてと耳を澄ませる。屋敷の奥へ奥へと音を追い、「この部屋から聞こえる」と確信すると襖を開ける手に躊躇はなかった。
チリン、と迎えるように鈴が鳴る。12畳ほどの部屋に明かりはついていない。友人が開けた襖から差し込む月光だけがほの暗く内部を照らした。

「鈴の音は部屋の奥の押し入れの中から聞こえてきてた」

チリン、チリン

「誰が鳴らしてるんだろう、親戚の誰かか、それとも霊的な存在か」

チリン、リリン、チリン

「何で鳴らすのか、呼んでいるのか、何を求めているのか」

リリリン、リリリリリン

友人は探究心のまま押し入れの取っ手に手をかけた。

「ヘンリー」

次の瞬間、友人は手首を掴まれ、肩も、心臓も何もかも跳ね上がった。
振りほどけない力で握るしわくちゃの手の持ち主は、友人の事を外国で生まれ祖国で死んだ孫の名前で呼ぶ遠縁のお婆さんだった。

「お屋敷広いけん、迷子なったか」
「…あ、ちがう…」
「悪戯はいけんよ、ヘンリー」

鈴の音は止んだ。友人は残念で仕方なかった。邪魔されたとも思った。けど、

「開けちゃいけん。出しちゃいけん」

その言葉を聞いた瞬間、友人の辺りがより鮮明に見えた。
気付きが増えた、解像度が上がったともいえるが。

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