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心霊

一郎さんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

八王子にある恐いトンネル
長編 2022/07/31 22:52 3,785view
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私は、八王子在住の60代の年金生活者。会社を定年退職してもう久しい。
初めのうちは、嫌味な上司の顔色を伺う必要もないし、毎朝満員電車で苦しい思いをしないでもいいし、仕事のノルマに振り回されることもないし、このストレスフリーな生活を心行くまで満喫していた。

しかし、そうした刺激のない生活というものは長続きしない。
1年半も過ぎるころには、やることのない日々の生活に嫌気がさしていた。人生百年っていうことは、あと30年から40年は生きるわけだ。

そこで、こいつはなんとかしなきゃいけないと思い、考えあぐねた末、自転車を買った。自転車といっても、アシストのないただのママチャリだ。このママチャリで、健康維持を兼ねて八王子の市内を走ってみることにしたのである。

老後に残された膨大な自由時間を、動ける間は自転車に乗って過ごしてみようと思ったのである。
しかし、これが案外嵌ってしまい、色々な場所に行くようになった。徐々に距離も伸び、江の島まで行ったこともある。そうなってくると、地図が必要になる。グーグルでコースを調べたり、スマホで現在地を確認したりといった具合である。

自転車で走り始めて1年ほどが経ったころだった。
ユーチューブで見たある動画が気になった。俗にいう心霊スポットってヤツだ。
それは、マイナーなユーチューバーがやっていた企画で、ある地域のオカルト的なことがら全般を扱った紹介動画だった。

心霊スポットは言うまでもなく、廃墟や限界集落、パワースポットなど、不思議に関わるものは全て扱っていた。

自転車で八王子周辺を走り回っていた私は、この地域はどうなんだろうと、ふと思い、ネットで八王子周辺の心霊スポットや廃墟を調べてみると以外に多かった。そこで、八王子周辺に散在している心霊スポットや廃墟を自転車で回ってみようと考えたのである。
私は、霊的な存在をあまり信じないタイプの人間だ。だから、そうした場所には恐怖を感じないし、特別な感情も持っていない。自転車で回ってみようと考えた切っ掛けも、ほんの興味本意からだった。しかし、この時点ではこのあと、あんな恐ろしい体験をするなんて夢にも思っていなかった。

八王子は、山間部に近い丘陵地帯のせいか、トンネルがわりと多い。そうしたトンネルの中に、心霊スポットと称されているものがそこそこあった。
それ以外では、公園や城跡、廃墟となった病院、霊園といったようなものが続く。

私はとりあえず、トンネルから攻めてみることにした。私の家のそばには、八王子1トンネル、八王子2トンネル、八王子3トンネルという3つの心霊スポットが集中していた。
丁度いい肩慣らしにと、3つのトンネルを1日で走破してみた。
しかし、どのトンネルも、自分が思っていたほどではなかった。まあ確かに、どのトンネルもそれなりの雰囲気は醸し出してはいたが、まあ、なんてぇことはなかった。

このあと、さらに三増トンネルを含め、心霊トンネルを幾つか回ってみたが、どれもみんな一緒だった。元々が霊的な存在というものを認めていないし、幽霊とか怨霊とか呪いとか、そういったものには疎かったので、特には何も感じなかったのかもしれない。

計画していた心霊スポットのトンネルとしては、あと1つ、旧小峰トンネルを残していた。しかし、トンネルにも少し飽きてきたので、行こうかどうしようかと迷いながらも、旧小峰トンネルの場所をネットで確認していた。

私は以前、旧小峰トンネルではなく、新しく造られた新小峰トンネルには行ったことがあった。考えてみれば、そっち方面にはここしばらく行っていない。そこで、秋川沿いに五日市線の終点、武蔵五日市駅に行ってみることにした。そのついでに、旧小峰トンネルを覗いてみることにしたのである。

前日にコースを練り、いつも持っていくリュックに必需品を詰め、準備を整えた。出掛ける当日は、前日の天気予報通り、朝からよく晴れていた。
しかし、いま思えば、この時から何かがおかしかった。朝、テーブルに座って朝食を摂っていた時だった。テーブルに血が落ちている。もしかして、と思い、ティッシュで鼻を拭くと血が付いていた。私は鼻血を出していた。子どもの時以来、この歳になるまで鼻血なんか出したことなんかないのに……?
鼻血は直ぐに止まったので、特に気にすることもなかった。朝食を済ませて、トイレ・洗面を済ませると、私は愛車(ママチャリ)に跨り家を出た。まだ、9時前だった。

先ずは八王子市街を抜け、多摩川に出る。途中、家の近くの大きな公園を横切っていると、何かが顔に当たった。
なんだろうと周りに気を配ると、小さな虫が無数に飛んでいる。よく見るとテントウ虫だ。それも数え切れないほどの大群だった。
顔や体にパシパシと当たってくる。自転車に乗っていても、道路にもいっぱい蠢いているのが分かるぐらいだ。こんな数のテントウ虫を見るのは、生まれ初めてだ。

テントウ虫の大群に気を取られながら公園を抜け、一般道に出た瞬間だった。
意識がテントウ虫の方にに向いていたせいか、車に気が付かなかった。ギリギリのところで接触は免れたが、車は相当なスピードを出していた。
もし当たっていたら、ただじゃ済まない。かなりひやっとさせられたが、その時はまだ単純に『ぶつからなくって幸運だった』ぐらいにしか思っていなかった。

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