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心霊

すだれさんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

ファミレスの藪蛇
長編 2022/07/14 22:02 3,568view

当時やりたい事がたくさんあって、バイトを掛け持ちして資金を捻出していた若い頃。
そのバイト先の1つだったファミレスで体験した話だ。

開店時間の2時間前に出勤して、後輩と2人で準備をしていた。どちらも従業員の中では日の浅い下っ端で、負担はまぁ大きかったがその分の賃金は多くもらってたから自分も後輩も特に不満なく業務をこなしていた。
帳簿の入力を済ませて食材の下準備をする間に、店内の掃除を後輩に頼む。
用具を抱えて薄暗いフロアに行く後輩を見送ってしばらく後、フロアから名前を呼ばれた。

「すみません先輩、あの端の席に何かモヤみたいなものが…」
「モヤ?」
「二度見した次の瞬間には消えていたんですが…この辺りに…」
「ふむ」

元々焼肉屋だった店は各席に焼肉用のガス管が通っている。もしや何か問題が発生したのか?と確認したが、特に異常はなかった。

「どうしよう幽霊とかだったら…」
「そういうの信じるタイプ?」
「たまに見えて…でも本当に苦手で…」
「ああそうだったか。うん、ガス管をもう少し点検してみるよ。君は開店まで休んでるといい」

そうは言ったものの後輩は怯え、宥めていたらその朝の開店準備はギリギリになった。パートの姉さま方から叱られはしなかったが心配された。

翌日の開店準備は、まだ怯えている後輩に代わってフロア掃除は自分が担当した。休んでいていいと言ったが、後輩はじっとしてるのも落ち着かないとトイレ掃除に向かった。
薄暗いフロアを掃除しながら脳裏では本物の霊的存在説と疲労による幻覚説がせめぎ合っていた。後者なら少し休ませるか。彼女もそこそこハードなシフトを組んでいるし、過労で幻を見てもおかしくはない。
しかし前者ならどうしたものか。霊的なものを酷く怖がるタイプのようだからなるべく避けさせてやりたいが…。他のパートの姉さまたちに聞いてみるか、でもいきなり「店の中にモヤ見えません?」と聞くのも気が引ける。他の人たちは見たことはないのだろうか…。

などと悶々と考えていると、トイレの方向から後輩のひきつった叫び声が聞こえてきた。
慌てて向かうと、トイレの前の通路に後輩がへたり込んでいた。

「大丈夫か!何があった!?」
「あ…の、トイレ、掃除しようとして、個室開けて…」

ガチガチと震える声の後輩曰く。
掃除のためトイレ個室のドアを開けた瞬間、腰辺りに衝撃を受けた気がしたそうだ。
思わず1歩よろけ、反射で下に向けた視線に映ったのは、腰に巻きつくように揺らめくいつぞや見たモヤだった。
まるで小さい子どもが腰に抱きついているような、そう思った瞬間、モヤの中から子どもの腕と手の輪郭が現れ、痛みで呻き声が漏れるほど強く握られた。

此方を見上げる小さな顔に口も目もなく。
その顔面は、吸い込まれそうなほどの黒で塗り潰されていたという。

その日を最後に、後輩は店を辞めた。
数日後、休憩時間に姉さま方に、モヤや子どものことは伏せてそれとなく聞いてみた。

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