人魚のようなもの

あれは、去年の夏休みに親戚の家に泊まりに行った時のことです。

その日は朝から暑くて、クーラーのきいた部屋でずっとテレビを見ながら寝転がっていました。お昼ご飯を食べてまたゴロゴロしていると、叔父さんの奥さんが

「海に行ってみない？」

と言いました。私は本当は行きたくなかったけど、せっかく誘ってくれたんだしと思って、しぶしぶ車に乗りました。

海岸に着くと、みんな水着になって海に入り始めました。私も泳ぎたかったのですが、あまり泳ぐのが得意でないことがみんなにバレてしまうのが恥ずかしいということもあったので、パラソルの下で一人ジュースを飲んでいました。すると、私の隣に座っていた男の人が、急に立ち上がって叫び声を上げました。

驚いて見ていると、海の方に向かって走っていきます。そしてそのまま波打ち際まで行って倒れ込みました。溺れてしまったのかと思いましたが、どうやらそうではないようでした。彼は海水の中で何かを探している様子でした。しばらく探した後、立ち上がろうとしてよろけてしまいました。足でもくじいてしまったのでしょうか？

しかし、よく見てみると、彼の手には魚のようなものを握っているではありませんか！　何だろうと目を凝らすと……なんと、それは人間の下半身だったのです！！ 上半身だけ見ると女の人みたいだったのですが、下半身は完全に魚のものでした。それが海藻のようにゆらゆら揺れています。まるで生きているように見えました。

男の人はその魚のような下半身を握りしめたまま砂浜に戻りました。そしてそれを砂の上に置きました。私は思わず悲鳴を上げて逃げようとしました。けれど、その時ふっと気付きました。この人はどうしてこんなものを拾ってきたんだろうと。そこで恐る恐る近づいてみると……そこにはもう誰もいませんでした。男の人だけでなく人魚のようなよくわからないものも……結局あの人は何をしていたんだろうか？ 今でも不思議でなりません。