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不思議体験

母の子さんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

命を助けてくれた犬
長編 2022/05/30 17:44 1,860view

母親に聞いた母の子どもの頃の話です。

母親がまだ小さかった頃、近所にいた野良犬に名前をつけ、とてもとても可愛がっていたそうです。愛犬のように毎日一緒にいて、餌もあげて。母親の家族ももちろん、母親とともにその犬を可愛がっていたそうです。

そんなある日、母親が食べた海鮮類に火が通っていなく、食中毒になってしまい、何日も何日も生死の境目をさまよっていたそうです。

当時まだ昭和30年代。今のように医学は発達していなかったであろう時代です。家族はみんな祈るように、母親の回復を願っていたことと思います。

日にちは刻一刻と過ぎて行き、回復を信じている反面もうダメかもしれないと、お医者様を始め誰もが思っていたそうです。

とその時、母親がふと目を覚ましたのです。そこにいたみんながみんな、相当驚いたことでしょう。しかも、さっきまで全く呼びかけにも反応しなかったのに、目が覚めたらケロッとしている。今までの時間はなんだったのか、みんなびっくりですよね。

当の母親は開口一番、可愛がっていた犬の名前を呼び、どこにいるのか家族に聞いたのですが、いつもは家の近くにいるはずの犬の姿が見当たりません。探しても探しても見当たらないのです。そしてその後も、待てど暮らせどその犬は姿を見せなかったそうです。

なぜ母親が、目が覚めてすぐ犬のことを気にしたのか。それは可愛がってたから気になったとか、しばらく目を覚さないでいたから会いたくなったから、とかではありませんでした。

母親が生死の境目をさまよっていた時に話が遡ります。

母親が生死の境目をさまよっていたそのとき、夢の中にその可愛がっていた犬が出てきたそうです。そして、すでに亡くなっていた母の祖父もまた夢の中に出てきました。

母の祖父は、孫であるわたしの母親のことをそれはそれは可愛がっていたらしいです。

そして夢の中で母の祖父が、母親に対してこう言ったそうです。

「こっちには来てはダメだ。」と。川の向こう岸から言っていたと。その川とは、三途の川の事だったのでしょう。三途の川は本当にあるのですね。

その三途の川をもしも渡っていたら、母親はきっと子どもの時にあの世にいってしまったことでしょう。そうなると私も妹もこの世に存在しないのかと思うと、背筋がゾッとします。

それでも母親は、会いたかった祖父に会えた嬉しさがあり、川を渡り祖父の方へ行こうとしたそうです。祖父に何度もダメだと言われながらも。祖父は向こう岸からダメだと叫ぶだけで、川を渡って母親の方へは来ることができなかったようです。

そこへあの可愛がっていた犬が現れたのです。その犬はどうしたかというと、母親を突き飛ばして川のこちら側、元々いた場所に母親を戻しました。そして犬自身は川の向こうへ去っていく。祖父の方へ向かって川を渡っていく犬を、止めるわけでもなく追いかけるわけでもなく、川のこちら側から、その光景を見守っていたそうです。
犬が祖父のもとにたどり着いたところで、母親は目が覚めたようです。

そんな夢を見ていたために、母親は目が覚めてすぐに犬のことを気にしたのです。

まさか、助けてくれた代わりに、川の向こうの祖父のところに犬自身が行ってしまったのだろうか。いや今のは夢だった、犬はきっと近くにいる。そんな色々な葛藤があったことでしょう。

しかし、そんな母親の願い、家族の願いも虚しく、犬は二度と母親のもとに帰ってくることがありませんでした。

もう助からないと思われていた母親が助かり、元気だった犬が行方不明になってしまった。

本当なのか偶然なのか、とても不思議な話ですが、母もそれを聞いた私も犬が母親を助けてくれたとしか思えません。その犬が身代わりになって母親を助けてくれたから、母親も私も今がある。感謝しても感謝しきれません。

そんな不思議な体験をしたからか、母親は生き物を飼うときはいつでも本気です。人間の家族のように、愛情をたっぷりかけて育てあげ、亡くなってしまった時は火葬をし、人一倍泣いて悲しむ。そして仏壇のそばにはペットの骨と写真をかざり、本当の家族にお線香をあげるように、ペットにもお線香をあげています。

そんな母親を尊敬するとともに、そんな愛情深い母親だからこそ、あの時、可愛がっていた犬が自分の命をかけてまで助けてくれたんだろうなぁと思っています。

子どもだったあの時の母親の話、もうとうの昔の話なのに、母親は今でも鮮明に覚えているのです。あの時に可愛がっていた犬の姿も、川で見た祖父の姿も、祖父が川の向こうからかけてくれた言葉も、自分を突き飛ばして身代わりになってくれたあの犬の後ろ姿も。

何十年たっても色褪せることなく、鮮明に脳裏に焼き付いているとのことです。そして、私にも何度も話してくれましたが、つい最近のことのように話してくれました。母親の話ぶりから、その時の光景がわたしも目に浮かぶようです。

ちなみに母親はそれ以来、海鮮類が苦手になってしまい、焼き物や唐揚げや天ぷらを作るときでも、必要以上に火を通します。医療が発達したので食中毒で生死をさまようことはないにせよ、食中毒になってしまったら辛いです。私たち子どもや家族に同じ目にあって欲しくないのでしょう。私もそんな苦しむ家族は見たくありませんが。

そんな母親は、ペットを可愛がるあまり、ハムスターが母親の話を聞くようになり、言うことを聞くようになったこともあります。ハムスターが人間の言うことを聞くなんてことあるのか不思議でしたが、本当に言うことを聞くのです。生き物は愛情をかければ、どんな不思議な現象でも起こしてくれるのかなぁと思います。

これから先、母親がペットを飼うかはわかりませんが、母親に飼われたペットたちはとても幸せな人生なんだろうなぁと思います。

私はまだ自分の子供が小さく、ペットを飼う余裕がないのですが、今後家族としてペットを迎え入れたら、母親をお手本に、家族同然に最期の時まで全身全霊で可愛がろうと思っています。

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