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せいぎさんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

なす畑の思い出
短編 2022/04/22 21:13 1,551view

私が幼かった頃、よく家族で海水浴に行っていました。

海はあまりきれいではなく、ゴミが浮いていたりしていましたが、磯の香りが夏の到来を感じさせてくれたのを覚えています。

その夏は、私の家族と近所の仲良し家族で一緒に海辺の民宿に泊まっていました。

その民宿は平屋で、新しくはないけれど、都会育ちの私にはとても新鮮に感じられ、そこに皆で泊まれることが嬉しかったのです。

昼の一番暑い時間帯まで、海水浴を楽しむと、休憩と昼食を兼ねて私たちは一度海から上がることにしました。

海水がべとつくので、冷たい真水で洗い流すと、あんなに火照っていた身体が一気に冷えました。

私は、濡れた海水パンツをはいたまま食事をするのが嫌だったのでシャツと短パンに着替えました。

民宿での昼食が終わると、遊び疲れてしまい、私たちは畳の大部屋で横になっている内に眠ってしまいました。

心地よい午睡の後に目覚めると、まだ他の大人や子ども達は眠っていました。

一人で起きていてもつまらないと思った私は寝直そうと目を閉じましたが、なぜだか暑苦しさを感じて眠ることができません。

渋々立ち上がって、民宿の回りを散歩でもしようと思い、まだ少し濡れているビーチサンダルを履きました。

まだ夕暮れというには早い時間でした。

部屋の中よりも涼しく、田舎独特のにおいがするのを感じました。

知らない土地を一人で歩くという行為を自覚すると、冒険に出たような高揚感を覚えました。

一本道を真っ直ぐ。私はそれだけを守れば決して迷子にならないと思い、ひたすら歩きました。

歩を進めているうちに、畑が見えました。何の畑だろうと思って近付くと鮮やかな紫のなすが実っていました。

私はなすの実を数えながら歩いている内に、いつの間にか自分がどこにいるか分からなくなりました。

前を見ても、後ろを見ても、なす畑しかありません。

自分はここから出ることができないのかもしれないと思うと、涙が出てきました。

私が泣きながら母と父を呼んだのは成長するまでこれが最初で最後でした。

方向感覚がなくなった中で勘を頼りに歩くと、全く見た覚えのない駄菓子屋さんがあるのが見えました。

私はその小さなお店ん見失わないように常に視界に入れて歩きました。

ようやく辿りついた私は、お店のおばあさんに両親の人相を話しました。おばあさんは、私が海の近くの民宿に泊まっているのだろうと考えて、電話をしてくれました。

当時、海辺にある民宿はそれほど多くなかったのです。

電話を受けて慌てた両親が駄菓子屋に私を迎えに来ました。

とるに足らない出来事なのかもしれませんが、私がさまよったなす畑は一体何だったのか、今でも時折思い出します。

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