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ヒトコワ

バクシマさんによるヒトコワにまつわる怖い話の投稿です

林間学校
長編 2022/04/07 20:29 4,116view

みなさん
中学生のときの林間学校にどんな思い出がありますか?
好きな子と一緒の宿に泊まれてドキドキ♡とか
キャンプファイヤーでマシュマロやハムを焼こうぜ!とか
こっそりロクヨンを持ち込んでマリカーやゴールデンアイしようぜ!とか
まあ楽しい思い出なんじゃないですかね。
うらやましいことです。
そのロクヨン、教師に没収されたらいいんです
・・・それにひきかえ私の林間学校といえば、それはもう酷いもんでして・・・

・・・旅館の前にバスが停められるはずだった
そのはずが森に囲まれた不気味な駐車場にバスは停まった
そこに俺の学年の全員が並ばされる
「よし 順番にこの藁人形をもってみろ!!」
担任のかかげた右手には、五寸釘が胸に刺された藁人形が握られていた
クラスメイトは訳もわからず順々に藁人形をまわしていった
俺の番がきたとき、とてつもない吐き気に襲われた
おもわず地面に膝をついてしまう
しかし非情にも、藁人形は淡々と次のクラスメイトへと移っていく
どうやら他のみんなは平気らしい。
「よーし それじゃあ、旅館まで歩こうか」
うずくまっている俺を尻目に他の教師が学年全員を連れていってしまう
残されたのは、俺と担任だけだ
「おまえはこっちだ」
担任に腕を掴まれ、みんなまとは別の方向へ無理矢理歩かされる
いったいなんだってんだ
森を抜けていくと河原に出た
そこにはテント器材がポツンと置かれていた
「ここがおまえのホテルだぜ」
そう言い残して担任は去っていった
・・・夜刻になり・・・
俺は焚き火をみつめながら 
その辺に生えていたタンポポを煮出した汁を飲んでいた
丁度いい座り心地の座石を見つけられてラッキーだった
撫でるとしっとり気持ちが良い 上品に滑らかな石だ
時代が時代なら将軍家への献上品になったことだろう
くわえ煙草で空を見上げる 遥か彼方に煌く星
原始時代の昔から この星々は変わらず宝石のように輝いているのだ
感慨深いな
ふと川面を見れば頭を僅かに出した少年がこちらを見ている

こっちは無粋だから放っておこう
しかし夏とはいえ冷えるな
ウイスキーでもあれば良かったのだが
おや、火が消えそうだ
薪を拾いに行かなければ
月明かりの下 森の中を彷徨い 薪を集める
あれはなんだ 懐中電灯の灯りだ
近づくと
クラスメイトのNだ
・・・そうだ 俺はいま林間学校に来ているのだ
なぜ三十代男のソロキャンプみたいなことをしていたのだろう
「おい N!」
「やあ君か なんで君は旅館に居ないんだい?先生に聞いても教えてくれないし」 
「いやね 河原でキャンプしてるんだ 焚き火も起こしてる」
「それはすごいね 君がイチバン林間やってるよ 謎だけど」
「うん まったく謎だよね ところで俺も旅館に行きたいんだ 連れていってくれないか」
「いいよ 凄く豪華な旅館でね みんな大満足さ」 
こうして俺はNと共に、みんなが泊まる旅館に向かった
途中、男のキャンパーの首吊り死体があったが、Nは気づかないようだ。まあ、これも霊だろうから放っておこう
やがて遠くにみんなの大笑いする声が聞こえる
よっぽど良いところらしい
しかしまだ遠くにいるであろう自分達にも笑い声が聞こえるのはなぜだろう?
やがて森を抜けてみんなが泊まっている旅館の前にきた
大きくて立派な旅館だ
贅沢に自然にも恵まれている
旅館の周りには薮のような草木が生い茂っているではないか
旅館の中に灯りは見えない
さらに窓ガラスは割れ、正面玄関の扉は外れて床に朽ちている
・・・そこは廃墟であった
中では暗いの中クラスメイト達が地べたに胡座をかいたり、寝そべって談笑している
これは・・・どういう状況だろう
クラスメイト達に近づいてみると、みんな目の焦点があっていない 口から涎を垂らして笑っている者もいる
「おいN!これはどういう・・・」
Nに話しかけたが、コイツの目も焦点が合っていない
「・・・なんだ おまえ来ちまったのか」
担任の声だ
声の方を振り向くと、教師達が俺をジッと見据えていた
「おい おまえはこんな廃墟にいるよりも河原でソロキャンプしていた方が楽だろ 
連れていってやるからとっと行くぞ」

俺は担任に連れられて再びベースキャンプへ向かった
その道中、行きに見かけた首吊り死体を担任が見て、「これか・・・」とつぶやいた。霊ではなかったのか・・
それはさておき、
担任にこの異常事態のわけを尋ねた
「・・・実は先生達な、お前達から集めた旅費を全額横領してしまったんだ」
「・・・は?」
「そしてその金は、ほぼ全て夜の街に溶けてったよ」 
「待ってください 旅費ったってひとり四万円以上ですよね それを全額て・・・」
「あの日々、先生達は人生を謳歌してたよ 」
「あんたら中等教育機関の倫理観じゃないよ!」
倫理観が寺子屋の担任はまだ話を続ける
「でもな、先生達まだ仕事を失いたくないんだ 
そして散々悩んだ末に思いついたんだよ
そうだ 生徒達を宿泊費無料の廃墟に泊めさせればいいんだと」
「・・・どういうことですか?」
「怪談でよくあるだろう 
暗い顔をした女将のいる不気味な宿に泊まって、朝に目が覚めたらそこは廃墟でしたってやつ
寿命は縮むかもしれないが、タダ宿にはありつけるんだ 
・・・それをこの林間学校で全生徒に仕掛けることにしたんだ」
「そんな無茶な」 
「無茶でも諦めないことが社会人には肝要だ 
諦めなければ光明が射すものよ
頭のおかしい友人から、うってつけに技巧派な呪いの廃墟旅館があると教えられたときは小躍りしたよ」
「類は友を呼ぶですね」
「ふふ・・・うまく最終日まで幻惑を見させて ラリっているうちに帰りのバスに担ぎこめば、あとはなんとでもなる 
正気を取り戻したときに多少混乱する奴もいるだろうが、
なあに、そこまでいけば誤魔化しも効くものだ」
「そうかなあ・・・あれ?もしかしてあの藁人形・・・」
「ああ 頭のおかしい友人のコレクションでな 呪いの藁人形だ 
霊感の強いやつが持つと体調不良になるらしい 
旅館の敷地内に入る前に廃墟だとばれると幻惑の効きも悪くなるそうでな ふるいにかけさせてもらった」
「なるほど 確かに俺には昔から霊がはっきり見えますがね
ところで・・・」
「なんだ?」
「俺は最終日までどうしたら?」
「だから河原でソロキャンプしてろって 
日中はキノコ狩りでも鹿狩りでも好きにしたらいいさ
ラム酒も届けてやるから、夜は星空のせせらぎを肴に一杯やんな・・・
・・・なんせこれは林間学校なんだからよ」

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