認識できない不思議な置き物

　私が通っていた高校では毎年9月に文化祭が行われており、２年生のクラスではお化け屋敷をすることになりました。手先が器用だった私は、友達のAくん、Bくん、Cさんと一緒に小道具の制作を担当することになりました。

　文化祭まで1週間を切ったある日の放課後、私とBくんとCさんは、いつも通り小道具を制作していました。

　そのうち陽が沈み始め、そろそろ帰ろうかと片づけを始めたその時、Aくんが教室に入ってきました。

　普段は明るい彼の表情が、その時は引きつっていたのが印象に残っています。

　そして彼は「これも小道具として使いたいんだけど。」と言い、おもむろにカバンから「物体」を取り出しました。

　ですが、私にはそれが何なのかわかりませんでした。確かにAくんの手には何かがあるのですが、その「物体」が何色でどんな形をしているのか、認識することができなかったのです。

　しかし、私はその「物体」を見て、すぐに強い不快感や恐怖が入り混じった複雑な感情を抱きました。

　私は困惑し、BくんとCさんの方を見ました。すると彼らも私と同じようでした。

　Aくんはそんな私たちに構うそぶりを見せずに、黒板の横にある机にその「物体」を置き、立ち去りました。

　そして入れ替わるように教室に入ってきた見回りの先生に帰宅するよう促され、私たちは困惑したまま家路につきました。

　翌朝学校に行くと、その「物体」は昨日と同じ場所に置かれたままでした。

　それに気が付いた私は、再び不快感と恐怖に襲われました。

　しかし、どうやらそれは私だけではないらしく、クラス全体がまるで誰かに脅迫されているかのような緊張感に包まれ、一日中教室は静かなままでした。

　そしてこれは文化祭当日まで毎日続き、その間Aくんが学校に姿を見せることはありませんでした。

　結果として文化祭の出し物は成功を収め、Aくんも再び学校に来るようになり、クラスの雰囲気も元通りになりました。

　そこにはもう「物体」の姿はありませんでした。