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不思議体験

庸一朗さんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

山から聞こえる異界の声
長編 2022/03/27 00:52 2,670view
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 はじめてそれに遭遇したのは、今から30年ほど前、私が小学生の頃である。

 地元は海と山にはさまれたのどかな田舎で、小学生の私は一時期、家近くの池で釣りに熱中していた。

 山のふもとにあるその池には、フナやブルーギル、誰が離したのか錦鯉やとんでもなく大きな金魚までおり、小麦粉を練った適当な餌で結構釣れた。当時の小学生にとっては絶好の遊び場だったと思う。

 学校が終わると、仲の良い友人数人でよくその池に出かけた。その日も友人のH、Nと連れ立って、夕方近くまで釣りを楽しんでいた。

 前から気になっていたのだが、きまって空が薄暗い曇りの日、池の背後にある山から、かすかに人の声のようなものが聞こえる。

 声のようなもの、それは「あ~あ~あ」と祝詞のような長唄のようなあまり聞きなれない不思議な声で少し気持ちの悪いものであったと思うが、それはどうも私にしか聞こえてないようで友人の誰も特に気にしていない感じがした。

 その日も少しムシムシとして、どんよりとした雲が立ち込めていたように思う。そろそろ家に帰ろうと釣り道具を終いだしたころ、その声が聞こえてきた。いつもは頭の中で響いているような、かすかな声であったが、その日はやけにはっきりと「あ~あ~」と鮮明に聞こえた。

 元来、祖母譲りの霊体質である私は、あまり気に留めないよう無視していたが、いくらなんでもこれは友人にも聞こえているだろうと、思い切って聞いてみることにした。

 「何か聞こえない?」Hは少し聞き耳を立てそっけなく「何も‥」特に聞こえないという。一方Nは少しの間黙っていて「あ~あ~ て、これのこと…」背後の山の中からかすかにその声が聞こえるという。

 Hには聞こえないが気になるらしく山へと歩きだし、声が聞こえる方を見に行くと言い出した。

 Hは山から池に注ぎ込む小川を軽く飛び越えると、少し急になった斜面を活きよい良く登りはじめ、生い茂る木々の向こうに消えて行った。

 Nが気づいたのだが、声が少しずつこちらに近づいているようだ。「あ~あ~あ…」だんだんと、つい先ほどまで遠くで響いていたその声が今しがたHが入っていった木々の向こう、すぐそこまで来ている。

 それはたぶん日本語でゆっくりとした現在では話さない昔の言葉のような、姿こそ見えないが複数人の声が合わさったようにも聞こえる。

 Nとあっけにとられていると、Hが斜面を駆け下り小川をバシャバシャと水しぶきをあげながら走ってきて「何か…気持ち悪いから帰る」疲れたようにそう告げると、釣り道具もそのままにして逃げるように帰ってしまった。私とNは急いで釣り道具をかき集めHの後を追った。

 Hが言うには山に入り、しばらくすると例の声が聞こえてきたという。人影は見えないものの声がだんだんと近づいてくるので怖くなって急ぎ戻ってきたとのこと。その一件以来、池に釣りに行くことはしなくなった。
 
 しばらくして、そんな出来事も忘れかけていた頃、少し不思議なことがあった。

 Hと遊びに行くため、家の軒下から自転車を出そうとした時、ポトンと頭の上に何かが落ちてきた。

 足元をよく見ると釣りで使っていた浮きの一つが転がっている。Hがふざけて投げたのかと疑ったが、Hは「またまた~、気持ちの悪いことをいうなよ」とあきれたように言って取り合わなかった。

 池の背後の山には戦前、神社の社があったようだ。現在は海近くの神社に合祀されていて山のどこかに石碑が残されているのみと聞く。

 Hが斜面を登って行った方にもう少し行けば開けた場所にでる。夏になるとカブトムシやクワガタムシをとりに山に遊びに行くことがあった。

 何度かその場所にも行ったことがある。当時、比較的新しいコンクリートで斜面が整備され、遠く海まで見渡せる高台となっていた。

 思い出したのだが、そこで赤く光るきれいな石を拾ったことがあった。石を拾った翌日、たまたま高熱を出し寝込んでしまった。祖母からあそこは昔、宮地であったから石なんか持ち帰ってはいけないよと怒られた。

 その高台は、ちょうどバブル景気に入る頃、不動産業者が別荘地として開発した。しかし工事途中に事故が多発、経営者が急死と悪いことが続いた。

 その後会社も倒産し、当時は神社跡を開発したので祟られたのだろうと噂になったようだ。当然買い手も付かず長年放置されていた。

 戦前よりさらにその神社の歴史を遡ると参道は海から数キロも続き、かなり大きな神社であったようだ。

 過去より多くの人が信仰していたであろう祭神がまだそこにいて存在を知らせているのか、または神社跡に何か魔物が棲みついているのだろうかと・・ずっと気にはなっていた。

 大人になり地元をゆっくり散策することも少なくなったが、帰省した際に一度長男をつれて近所を歩いた。

 都会育ちの子にとっては、山が近くに見えるのが珍しいらしく、池の近くにも足を運んだ。過疎化が進んだ今では、池の周囲は民家もなく子供の姿を見ることもない。高台もコンクリートごと木々に覆われ山に飲み込まれている。

 まだ昼過ぎの明るい時間帯であったが、薄暗くいかにも何か出てきそうなそんな雰囲気だった。

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コメント(1)
  • こういう土地って実はたくさんあるんだろうな

    2022/03/27/10:36

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