ある殺人事件

その日はいつも通りパトカーで警らをしていました。まもなく日没というタイミングで無線が鳴りました。

「〇〇本部から各局。＊＊PS管内、殺人容疑事案110番入電中。女性が刃物のようなもので刺された模様。現場…」
助手席の先輩の顔も強張っていますが、すぐに無線を手に取り現場に向かうと連絡を入れていました。

現場にはパトカー1台と交番のバイクが先着していました。
状況を聞くと「被害者がいない」というのです。一瞬いたずら通報かと思いましたが、通報者の中年男性は青ざめた顔をして立ち尽くしています。
話を聞くと、「ジョギング中に公園の前を通りかかった際に、ベンチの横で男女が揉み合いになっているのに気づいた。直後に女が刺されて崩れ落ちた。」とのことでした。しかし、公園内には誰もいません。文字通りわけがわかりません。

そうこうしているうちに機動捜査隊や署の刑事課がやってきました。状況を伝えると私たちと同様に何じゃそりゃと言わんばかりの表情をしています。
手分けして付近を捜索しましたが、被害者も血痕も凶器も見つかりません。後味の悪いまま私は現場を離れました。結局その日は市内の病院に刺された女性が来ていないか確認することしかできなかったようです。

数日後、あの事件は幽霊の仕業だという噂を耳にしました。どうやら数年前にもあの公園で殺人事件が起きていたようです。事件はよくある痴情のもつれ。呼び出した愛人を男が刺し殺し、自宅で自殺したそうです。

どちらも成仏できそうにない死に方ですから、死んでも尚まだあの公園で言い争いを続けているのかもしれません。