犬が踏切に行く理由

数年前、私は犬を飼っていました。散歩コースは決まっており、近所をぐるりと一周して帰ってきます。

ある日のこと、犬がぐいぐいリードを引っ張って住宅街の脇道に走り込みました。

「こらジョン、どこ行くの！」

大声を上げて叱ってもジョンは止まってくれません。仕方なく引きずられていった先には遮断機の下りた踏切がありました。ジョンは喜び勇んで周辺を嗅ぎ回っています。

「全く……」

ジョンの暴走にはあきれたものの、犬だってたまには気分転換したくなるかと思い直しました。

こちらも毎日同じ散歩コースに飽きてきた頃合いですし、道を変えてみるのもいいかもしれません。

翌日から私はジョンに引っ張られるがまま、踏切を散歩コースに組み込みました。ジョンは嬉々として踏切周辺の地面や遮断機、草むらを嗅ぎ回っています。

「電車が来ちゃうからもういくよ」

草むらに鼻面を突っ込んだまま、動かないジョンに催促した時……飼い犬が夢中で嗅いでいるものが目に入りました。

「きゃあああっ！」

ジョンがしっぽを振って舐め回していたのは草むらに落ちた肉片でした。既に腐りかけて蠅がたかっています。

後日、あの踏切で自殺者が出たことを知りました。