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呪い・祟り

櫻井文規さんによる呪い・祟りにまつわる怖い話の投稿です

贄の務め
短編 2022/03/04 22:21 1,351view
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 その集落は比較的最近まで「村」とされていたが、近年最寄りの町と合併した。住所からは「村」という記載は無くなったが、環境的にはそれまでとさほど変化のない場所だった。
「何年か前にデカいスーパーが出来たんだって」
 高校卒業後、都心に就職したAさんは言う。
「でも店長さんが店の中で首吊って死んで、それからすぐに潰れちゃったって」
 ほどなく建屋には新しい店舗が入ったが、それもすぐに撤退したのだそうだ。Aさんいわく「オーナーが駐車場でガソリンかぶって火をつけて死んだの」だと言う。
 私が、彼らの死は何が原因だったのかと訊ねると、Aさんは携帯をいじりながら続ける。
「あそこは村の入り口だから」

 その村は山の麓にあり、近隣の町は小さいながらも湯治の場として密かに知られていた。その影響もあって村を通りかかる余所者も多く、中には病をもたらす者や狼藉を働く者もいたという。
 村の者たちはそれを「厄」と呼んで厭い、その厄を村に入れないようにするための手段を村の拝み屋に問うた。拝み屋は応えた。
「村の入り口に贄を住まわせ、厄を贄に負わせるといい」
 それから村の者たちは村の入り口に小さな家を建て、湯治で訪ってきた余所者を住まわせるようにしていたのだという。

「うち、母親は元々村の人なんだけど、父親は母親が飲み屋で引っかけた余所者だったらしくて。母親が他に男作って逃げてから、おじいちゃんが新しく家建ててくれたんだよね。あの場所に」
 Aさんは淡々と話を続けている。
「父親はアル中になったけどしばらくは生きてたし、姉が行方不明になった後は私が殴られてた。正直、はやく死なないかなって思ってたけど、私が高校出るちょっと前に首吊ってね」

 ザマアミロって思ったよ。
 その時になってようやくAさんは携帯をおろし、顔を上げた。痩せた頬、ツヤのない肌。メイクはされているものの、落ち窪んだ眼に光は無い。
「おじいちゃんは村に住めってうるさかったけど、学校の先生に車乗せてもらって逃げて来た。死にたくないもん」
 そう言って、Aさんはテーブルの上のケーキをひと息に食べ終える。
「うちらの家は無くなって、入れ替わりにスーパーが出来た。これからも何かしら店舗は入るだろうし、ちょうど良いんじゃない?」
 カ、カカ。Aさんは面白そうに笑う。しかし眼光は深い暗色をたたえたままだった。
 
 

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