ランドセルの中身

これは私が実際に体験した出来事です。

その日は仕事で夜遅くなり、急ぎ足でネオン瞬く繁華街を抜けていました。
途中、場違いな人影を発見しました。
小学校3・4年ほどの女の子が赤いランドセルを背負い、風俗店の狭間の細い路地に吸い込まれていくのです。

夜の繁華街に何故子どもが？ひょっとして迷子だろうか。

どうにも気になって素通りできず尾行した所、女の子は路地の暗がりに俯いてたたずんでいます。

「どうしたのお嬢ちゃん。お母さんは？」

質問には黙って首を振ります。

「じゃあお父さんは？」

女の子の顔が強張りました。

「……うんと遠くにいる」

えっ、と心の中で叫んだ矢先に身を翻します。
慌てて手を伸ばしランドセルを掴めば、はずみで金具が開いてドサドサ中身が零れ落ちました。

教科書やノートに紛れ白い粉が入った透明な袋が顔を覗かせます。

「まさか……」

その場で通報するやいなや警察が駆け付け、女の子の身柄を保護しました。

後に判明しましたが、彼女はヤクザの養父に麻薬の運び屋をさせられてたのです。
実の父親は刑務所に収監されており、母親は数年前に蒸発して行方知れずです。

現在養父は逮捕され、少女は児童養護施設に送られたそうですが……元気で幸せに暮らせているように願ってやみません。