しばたゆうこ（仮）

私が初めて一人暮らしを始めた時の話です。

地元を離れ、東京の小さなボロアパートに引っ越して数日経った時、自分の部屋から出ると隣の住人とすれ違いました。その方は私を見ると「あ、この前はどうもありがとうございました」といってきました。私はまだその人にあったことがなかったので「え、なんのことですか？」と聞くと「先日、同居人の方が引越しのご挨拶に来てくれてお菓子をいただきました」と言うのです。

私はその部屋に男で一人暮らしでしたし、挨拶にも行っていません。そう伝えるとその人は不思議そうに「でも１０１号室（私の部屋）に引っ越してきた、と言っていたんですが・・・」と言います。ちょうど引越しのシーズンだったので、私と同じタイミングで別の部屋に引っ越してきた人が自分の部屋の番号を間違えたのではないかということでその時は深く考えませんでした。挨拶に来たのは女性で「しばたゆうこ（仮）」と名乗っていた、と言われました。

それからは特に不思議なことも起こらず、1年ほど経った頃です。休日に部屋にいるとインターホンがなりました。

出てみるとNHKの集金の人が来ていました。私の部屋にはテレビを置いていなかったのでそう伝えると集金人の人は不思議そうな顔をして「今回私が伺ったのはお客様から電話で受信料の支払いの申し込みがあったからなんです」と言うのです。部屋の番号か住所を間違えたのでは？と言うと「そう言われれば確かに女性の名前で申し込みされてますね」と言われ、嫌な予感がしたのでなんという名前ですか？と聞くと「しばたゆうこさんという方です」。

そのあとすぐに引っ越してしまったのですが、しばたゆうことは誰なのか？もしかすると私は1年の間知らない女性と同居していたのかもしれない、と思うと少しゾッとします。