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不思議体験

凍さんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

お国の為です
長編 2022/02/06 21:08 4,539view
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俺は勤続二十年になる外科医です。今回は地方都市の病院で体験した怖い話をします。

当時俺がいた病院は戦前に建てられた歴史ある建物で、あちこち老朽化していました。
平成に入ってから増築された新館は綺麗で清潔ですが、旧館にはどことなく不吉な雰囲気が漂っており皆避けています。
第二次世界大戦中に軍が人体実験を行っていたといわれていますが、正直な所根も葉もない迷信だろうと高を括っていました。しかしそんな噂が出回ってもおかしくないほど薄暗く湿った場所なのは確かで、これでは病気が治るどころか悪化する一方だと案じていました。

あれは当直の晩でした。
普段は新館の外科病棟で働いているのですが、その日はちょっとした用があり夜11時頃に旧館へ出向いたのです。
久しぶりに足を踏み入れた旧館は以前にも増して不気味に感じられ、早く帰りたいと気が焦りました。

「それでは失礼します」

旧館の看護師に頭を下げてから引き返している時、廊下の途中で違和感を覚えました。来た時と同じ道を辿っているはずなのに、見覚えのない通路に出てしまったのです。

「妙だな……この年で迷子なんてしゃれにならんぞ」

もともと方向音痴な自覚はあったのですが、何年も働いている病院で迷うなど笑えません。
しばらく行ったり来たりしたものの帰り道をすっかり見失い、軽いパニックを起こしました。
天井の電灯はチカチカ不規則に瞬き、廊下のそこかしこに澱んだ闇が忍び寄ってきます。

旧館の通路が入り組んでいるのは知っていましたが、職場で遭難するなんてばかげています。

突然ガラガラと音が響き、反射的に振り向きました。廊下の前方からワゴンを押して歩いてきたのは見慣れない看護師でした。しかしどうも様子が変です。違和感の原因をさがしてよく観察し、彼女が着ている白衣が現在支給しているものと異なるデザインなのに気付きました。

古臭い白衣を目で追っていると、ワゴンがガラガラと近付いてきて、看護師の目鼻立ちがはっきり浮かび上がります。
胸元の名札の文字は何故かぼやけて見えず、得体の知れない不安に苛まれました。

「待て!どこの科だ?」

もちろん、この病院には大勢の看護師が働いています。よその科の所属なら顔と名前を把握していなくても無理ありません。
なのに何故目を離せないのか……不審に思いながら角を曲がった背中を追いかけると、古いドアが壁に穿たれていました。

「ここに入っていったのか?プレートがないな」

ドアの横には「何々室」とプレートが掲げられているはずなのですが……好奇心に駆り立てられてノブを捻ると意外にあっさり開き、饐えた暗闇に飲み込まれました。

「っ!?」

最初に鼻腔を突いたのは鉄錆びた血の匂いでした。部屋には噎せ返るような血臭が立ち込めています。
暗闇に目が慣れるに従い視界に浮かび上がってきたのは、部屋の中央でメスを持ち立ち尽くすあの看護師と、ベッドに寝かされた満身創痍の患者です。

「うわああああ!」

とても現実のものとは思えない光景に取り乱し、素早く回れ右した俺のうなじに冷えた吐息がかかりました。

「お待ちしていました、先生」

振り返れば正面に看護師がおり、一途な使命感が漲る表情で申し出ました。

「さあ、私の腕を移植してください」
「え……」
「お国の為に戦っている兵隊さんのお役に立ちたいのです」

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コメント(3)
  • 性別違うと移植出来ないんですか?
    腕だけですか?
    昔の技術力ではってことかな?

    2022/02/06/22:47
  • ↑男性と女性じゃ腕の太さも違うだろ……
    それ以前に血液型とか免疫の問題とか超えなきゃいけないハードル多すぎ

    2022/02/07/11:52
  • BJ先生なら、腕の移植も幽霊の手術も可能だな。三千万円くらい取られるけど。

    2022/02/12/10:51

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