名前も知らない橋の上
投稿者:上龍 (34)
短編
2022/01/28
22:37
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これは私が小学生の時の話です。
当時私は親の仕事の都合で東北に引っ越しました。人見知りな為なかなか友達ができず、唯一にして最大の楽しみといえば下校中にちょっとした探検をすることでした。
その日も小枝を振り回して学校裏の田園を歩いていたのですが、少し離れた山の麓に見慣れない橋が架かっているのに気付きました。
あれ、こんな橋あったかなと首を傾げていると、橋の対岸を一昨年亡くなった祖母が歩いていくではありませんか。
私は大層びっくりし、「おーいおばあちゃん」と手を挙げて呼び止めました。
すると祖母は目を丸くし、「あんれまあ、また落ちたんかね」と意味不明な独り言を呟きます。
祖母への恋しさが募り橋を渡ろうとした所「いかん」と制止され、此岸へと追い返されました。
「どうして渡っちゃいけないの?」
「お前には寿命が残っとる。ばあちゃんはこっちで見守ってるから達者でやりな」
にっこり微笑んだ祖母が強く踏み付けるなり、橋はたちまち崩れ去ってしまいました。
数年後、大学生になった私はレポートの資料をさがしに図書館に立ち寄りました。
そこで偶然閲覧した新聞には、台風による河川の氾濫で流された橋の写真が載っていました。
「場所は全然違うけど、あの橋とそっくり同じだ」
新聞の日付は橋を挟んで祖母と対話した数日前になっています。
もし橋にも寿命があるのなら、川に流されたり壊れた橋が、あの世とこの世を繋いでしまうこともないとは言えません。
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