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とろとろさんによる妖怪・風習・伝奇にまつわる怖い話の投稿です

鎮められた物置小屋の秘密
短編 2022/01/26 14:56 1,534view
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私は子供の頃、田舎のおじいちゃんの家に時々泊まりに行っていました。
おじいちゃんの家には、物置小屋がありました。でも私は、そこに入ることも、近寄ることも許されませんでした。
「大事な物が入っているから、壊されたら困る」
という理由で。

私は子供心に、その物置小屋が気になって仕方がありませんでした。そこで、おじいちゃんが寄合に出かけたスキに、こっそり忍び込みました。
扉には南京錠がかかっていましたが、あらかじめ家の奥で見つけておいた鍵を使い、忍び込んだのです。

中は、がらんどうでした。物置小屋でありながら、物が何ひとつ置かれていなかったのです。
あるのは、奥の壁に貼られた一枚の紙。何か呪文のような文字が書いてある、人の形をした紙でした。

私は不吉な感じがして、小屋から出ようとして、扉の方を向きました。
その瞬間、腕に風が当たりました。
風というより、それは吐息。まるで動物の息遣いのような、「ハッハッ…」という、湿り気を帯びた生暖かい空気の波でした。

「うわぁー!」
私は仰天し、小屋を飛び出し、施錠もせずに母屋に帰りました。そして寄合から戻ってきたおじいちゃんに飛びつき、全てを打ち明けました。

するとおじいちゃんも、小屋の秘密を明かしてくれました。
その小屋は、昔、精神病の身内を閉じ込めるために建てたのだそうです。当時は精神病院などなく、監禁状態にするしかなかったのです。

その身内の方は、食事もろくに与えられず、排泄物も垂れ流しの小屋の中で、毎日ただただ扉に向かってうなっていたそうです。

死を迎える時まで、ずっと…。

ところが死後も、その小屋からはうなり声が聞こえてきました。
不気味に思った一族は、小屋を取り壊そうとしましたが、なぜか事故が続き、壊すことができず…。
やむなく、お札で鎮めていたそうです。

「あの人型の紙が、お札だったのね…」
私は合点がいきました。
そしてあの時の風…。あれは、うなり声をあげる時の吐息だったのかもしれません。苦しみと悲しみとがめいいっぱい詰まった、恨みの吐息…。

おじいちゃんはもう亡くなりましたが、あの小屋は、今でもまだ残っています。
そしてその周囲では、きっと夜な夜なうなり声が響いていることと思います。生暖かい、恨みの吐息と共に…。

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