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心霊

kotohaさんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

隣にいたのは誰?
短編 2022/01/13 16:51 932view

 この日、僕らはいつものように、部屋でのんびりとテレビを見ていた。隣にいるカナエは、付き合って3年、同棲を始めて1年になる彼女だ。カナエとはいろいろあった分、大切な人であり、お互い無事に就職出来たら、いよいよ結婚かなと密かに考えていた。そんなごく普通の幸せな生活も、この日を境に終わりを告げる。
 事の発端は、カナエがバイト先で聞いてきた話だった。「今日、バイト先のお客さんから面白い話を聞いたの」喫茶店でバイトしているカナエは中年男性から聞いた話を僕にしてくれた。「ここから車で30分くらいのところに旧道の入り口があって、そこを進むとトンネルがあるらしいんだけど、そこがやばいらしいの!今から行ってみない?」カナエは心霊系が好きだった。僕は得意な方ではないので気乗りしなかったが、キラキラした目のカナエを喜ばせたくて、行くことにした。ハンドルを握って出発したのは、車のヘッドライトと傾いた夏の夕日が入り混じり、世界が橙色に染まる頃だった。
 カナエの案内の元、旧道に入った頃には、辺りは闇に包まれていた。今思えば、胸騒ぎを覚えたこの時に、引き返せば良かった。トンネルに到着したのはそこから15分後。心もとない街灯が点滅しており、より重苦しい空気感を感じる。「昔、ここのトンネルの中で焼身自殺があったんだって。それから新しい道ができるまでの数年間は、事故が頻繁に起きるから、地元の人たちはよりつかないんだってさ」僕たちは大学進学とともに、この地に来たので、初めて聞く話だった。「さ、行こ?歩いていくと、必ず何か起こるんだって」あまりの雰囲気に正直怖じ気ついていた僕だが、手を引くカナエに連れられ、墨のような黒色の中に足を踏み入れた。
 トンネルに入り大体50mほど進んだ時、早速、事は起きた。頼りにしていた手元のライトが消えたのだ。固まる僕、焦る彼女、カチカチという音がトンネルに響き渡る。「戻ろう」僕がそう言うと彼女も頷く。進んできた方へ振り返ろうとしたその瞬間、そいつは現れた。僕らから約5m先、暗闇に包まれてるトンネルの中で、より一層、黒く淀んだ色の人の形をしたそいつがいた。「ギャー!!!!」叫んだのはそいつだった。その叫びが合図かのように、僕は彼女の手を引いて走り出した。僕らの足音が響く。そのすぐ後ろをそいつが追いかけて来るが分かった。びちゃびちゃという音がついてくる。終始何か叫んでいる。焦げ臭い匂いもする。彼女は無言で走る。泣きそうになりながらトンネルを抜け勢いよく車へと乗りこんだ。彼女が乗っているのを確認し、鍵を閉めエンジンをかける。ヘッドライトが前を照らした瞬間に『バンッッ!!』そいつがボンネットに両手をついて立っていた。「うわっーーー!」パニックになった僕は叫びながら車を勢いよく発進させた。『ドンッ!ガコッ!ゴリッ!』という音とともに車体が大きく揺れた。「え・・轢いた?」訳が分からなかった。幽霊なら轢ける訳がない。本当の人だった?誰かのいたずら?そうとなれば確認せざるを得ない。恐る恐る車を降り、車の後方に倒れているそいつに近づく。そこにいたのは、頭から血を流し腕があらぬ方向に向いたまま倒れているカナエだった。
 そこからのことはよく覚えていない。救急車を呼び、カナエとともに病院に向かったが、カナエは亡くなった。僕は、現場の状況から殺人の容疑者となり、最終的に執行猶予付判決となった。ずっと隣に立って共に歩んできたカナエを僕が殺した。あの時もずっと隣にいたはずなのに。これからも隣にいてくれるはずだったのに。

 僕は今、2人で過ごしたあの部屋にいる。隣には、カナエではなく、黒く淀んだそいつがいる。

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コメント(1)
  • ちゃんとしっかり手を繋いどかないと。

    2022/01/13/17:58

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