理科準備室

以前の会社の同僚のSから聞いた話。
Ｓと私は高校は違うが地元は近く、
同じ会社に入社して、しばらく後に知りあった。
Ｓと飲んでいるときに
「そういえばＳの高校って、自殺騒動が起こったよな。
　卒業した翌年くらいに。」
と口にしたところ、Ｓから
「関係ないかもしれないが実は・・」
と聞かされた話だ。

高校時代にＳは理科クラブという文系部に所属していた。

放課後に理科室で活動をしていた部だが、
とくに活発な部でもなく、部員は全学年で数人。
それもほとんど幽霊部員。部室などもなかった。
Ｓが放課後に理科室に行っても、他に誰も来ない日もあり、
職員室から借りてきた鍵で理科室の戸の南京錠を開け、
小一時間ほど実験や読書などしたあと、掃除をして、
戸を閉め鍵をかけて帰る。
そんな日も多かったそうで、陰では
「理科室の掃除係」などと言われたりしていた。

理科室の横には「理科準備室」という小部屋があった。

実験器具や標本や薬品などを置いておく物置部屋だ。
準備室は廊下から直接入る入り口はなく、
理科室のなかのドアからしか入れなかった。
しかし準備室の廊下側に面した壁の下のほうには、
小窓のような小さな引き戸があった。
換気とか掃除のための戸のようで、
人が出入りするための戸ではなかったようだが、
高校生男子なら匍匐前進のような感じで
腹ばいになって床の上をすべるようにすれば
出入りができるくらいの大きさの戸ではあった。