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心霊

adoooさんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

鬼ごっこする影
短編 2022/01/03 12:37 922view

小学校中学年くらいのころの話だったでしょうか。

私は畑ばかりの田舎町から、海辺のもう少し大きな町へ、父の転勤について行くことになりました。慣れない磯の香りが充満する空気のなか、たどりついた転校先の小学校はこれまでに見たこともないような恐ろしく古い校舎でした。曇天の下、木造二階建の校舎外観は異様な雰囲気を放っており、まるでお化け屋敷といった風情でした。余談ですが、いまではすっかりその校舎も建て替えられて、少子化の影響で他の小学校と統合されたようです…。

そんな木造校舎に怖いうわさ話がないはずはありません。女子トイレの幽霊の話だの、深夜に勝手になる音楽室のピアノの話だの、お決まりの「七不思議」を転校生の私は新しい友人たちにさんざん聞かされました。七つとも知ってしまうと恐ろしいことが起こるのだそうですが、それどころか、それぞれに話す内容が少しずつちがっていて、どう考えても七つにはおさまりそうにありませんでした。

しかし、いまからみなさまにするお話はこの七不思議とは何ら関連のない、私一人が夕方の校舎で体験したことです。確か、クラブ活動の兼合いだったでしょうか。少々帰りが遅くなってしまい、傾いた西日がさす校舎内を私は玄関に急いでいました。そこで「あ」と言った私は、慌てて来た廊下を取って返しました。確か忘れ物でもしたのではなかったかと記憶します。何でも大切なもので、それがないと自宅で宿題が進められなくなるような…。自分の教室のある二階へと階段をのぼろうとしたそのときのことでした。

階段を中ほどまでのぼると踊り場になっていて、そこをくるりと反転して残り半分をのぼるタイプの階段だったのですが、だれかが先をのぼっていく影が見えます。古い木造校舎のことですから、階段のきしむ音も、影の足の動きに合わせてぎしぎしと聞こえてきます。「まだだれかいるのかな」と思った記憶がありますので、ふつうなら児童の残っていないような時間帯だったのでしょう。けれどもそのときは、「ぼくみたいに忘れ物したのかな」くらいにしか思わずそのまま教室に向かいました。

ところが、のぼりきったところで廊下にはだれも見当たりませんし、ほかの教室からも特にひとのいる気配はしてきません。「え…」と不気味に思った私はあわてて自分の教室に向かい、忘れ物を引っつかみました。そのとき、ドンドンドンドン…とだれかの走る音が廊下から聞こえました。「やっぱりだれかいたのかな…」と少しだけほっとしました。

ところが、廊下に出た私は信じられないものを見ました。

ドンドンドンドン…という音に合わせて、影が走っていきます。影の形からして、たぶん女の子でしょう。ところが、肝心の影の持ち主がどこにも見当たらないのです。そのとき、なにを思ったか、私はその影を追いかけて廊下を走りだしました。どうかすると、追いついたところで影の持ち主の姿が見えるのではないか。

無理でした。

影はテンポの良い足音で、ずんずん階段を下っていきます。が、どこをどう見てもだれもいないのです…。階段を降りきったところで影を見失いました。そのときです。なにか視線のようなものを感じて私は踊り場の方を見上げました。嘘だ…。

影法師が何人か、階段の上からこちらのようすを伺っているようでした。私がそちらを見て、ためらいがちに足を最初の段にかけますと、まるで鬼ごっこでもしているように影たちは大きな足音をたてて一目散に走って逃げていきました。

あれは何だったのでしょうか。

友達に聞いた「怖い話」とか「七不思議」のなかにこんな話はありませんでしたし、その学校に長く勤務している先生方に質問しても「なにも知らない」ということでした。

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